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光 【三浦しをん】 [静かな物語の棚]

きっと、人によって好き嫌いがある作品ではないかと思います。
心に何か響いているんだけど、その正体は何か、自分のどの部分
に響いているのかが分からない(整理できない)という深い作品に
久しぶりに出会いました。

    光.jpg
    ▲ 光 (集英社文庫)
         ( ↑ amazonへはタイトルをクリックしてネ!)
     作者: 三浦 しをん
     出版社/メーカー: 集英社
     発売日: 2013/10/18
     メディア: 文庫

【 story 】

美しい島・美浜島。そんな島を、地震による黒い津波が突然覆い、
家族、知人そして街の何もかもを奪い尽くす。
偶然、難を逃れた中学生の信之、美花、そして輔(たすく)。
そして、その混乱の中、信之は美花のためにある罪を犯す。

20年後、信之は、妻と娘との家庭を築いていた。そこに、信之の
秘密を知る輔が現れるが・・・。

【深い闇の底に溜まった澱】

これから読まれる方は、上に書いた「あらすじ」から想像する物語
とは、きっと全く違う物語に出逢うでしょう。
いつもは、内容に踏み込みすぎず、でも、少しでも作品の雰囲気
などが伝わるように意識しながら「あらすじ」を書くようにしていま
すが、この作品は、内容に踏み込まずに物語の雰囲気などを
書き表すのは本当に難しくて、結局、諦めました。
ですので補足的に付け加えると、感覚的ですが、深い闇の底に
溜まった澱(おり)のような読後感の物語です。重いです。

  [ご注意] この先は、物語の内容に少し踏み込みます。
       まだ読んでいない方はご注意ください

この物語は、信之を中心に、輔や信之の妻・南海子の視点から
交互に描かれています。
信之の心はまるで空虚。表面的にはおだやかで真面目ですが、
自分のことをでさえ他人事のようであり、輔や妻子の痛みを痛み
とも感じない、仕事や家庭に喜びや希望を見いだす訳ではなく、
まるで無感覚、無痛覚です。しかし、心の奥底には、暗い津波と
ともに深い海の底に沈んでしまったかのように深い闇を抱えて
います。まるで、生きることに“光”を見いだすことを否定している
かのようです。

そういった信之の心理や心情に共感している訳ではないのですが、
上手く言葉にできないのですが、私の中に何か彼の心理や心情を
理解しているところがありました。もしかしたら、私の心のどこかに
も信之のような闇があって、それが心を揺さぶっているのかもしれ
ません。

そして、信之だけでなく輔もまた同様であり、そして、どこにでも
いる普通の人として描かれる南海子の心についても、また簡単
には理解できない複雑さ、あるいは怖さが描かれています(美花
については心理がほとんど描かれていないため、意図的な行動
なのかそうでないのか、考えが見えない違う怖さがあります)。
このように、登場人物たちの人の心の闇というか、理解できない
複雑さ、怖さといったものが、この作品に惹きつけられる理由な
のかもしれません。

最初に、深い闇の底に溜まった澱のような読後感で「重い」と書き
ましたが、この重さが私の嗜好を刺激する作品です。
私は好きです (*^-')bコノミ♪


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晩夏 【図子 慧】 [静かな物語の棚]

以前読んだときは、私好みでとても気に入りながら、記事を書いて
いる時間がなくて、ブログに取り上げられませんでした。
その後も、時々、ふっと「もう一度読みたいな」と思うことがあった
のですが、書棚の奥深くにしまい込んでしまい・・・。今回、やっと
改めて読むことができ、念願の掲載ができました。

  晩夏.jpg
  ▲ 晩夏 (創元推理文庫)
  ( ↑ amazonへはタイトルをクリックしてネ!)
  作者: 図子 慧
  出版社/メーカー: 東京創元社
  発売日: 2010/10/28
  メディア: 文庫

【 story 】

彼女は病弱なイトコを愛していた。
たぶん、血のつながり以上に。 

夜が明けても帰らなかった伯母。
代々の造り酒屋の家付き娘で、自由奔放ではあるが病弱な息子の
瑞生を心配し、無断外泊など一度もしたことのないあの伯母が。
幼い頃から瑞生をみてきた想子は不安を感じる。
 瑞生は何か隠している―

そして、伯母の死体が発見され・・・。

【 繊細かつ上質 】

背表紙に紹介された“あらすじ”には、最後、「繊細な筆致で綴った
上質な青春恋愛ミステリ」との言葉で締めくくられています。
私の受けた印象も、繊細で上質。正に作品を表していると思います。

晩夏というタイトルがイメージするように、突き刺さるような日射し
もなくなり、ちょっと重くて、さみしさ、気だるさ、そんな夏の終りに
漂う独特の雰囲気が流れている作品です。そんな雰囲気が漂う中、
それとは対照的に、少女でなく大人にもなり切っていない過渡期の
女性の繊細さ、純粋さ、不安定さなどが、繊細に、瑞々しく丁寧に
描かれ、輝いています。

失踪直前の伯母の不可解な行動は?
瑞生が隠していることとは?

と、ミステリの要素も楽しめますが、この作品の魅力は、それ以上
に、想子を繊細に丁寧に描いているところでしょうね。この作品の
ように、静かな作品は、本当に私好みです(*^-')bダイスキ!

【 +plus 】

以前、読んだのは2010年。出逢った小説リスト【2010年版】(Link)
でも触れましたが、この作品は、“あらすじ”より“カバー”に惹かれ
たのが購入のきっかけ。
私の中で、イラストにしろ写真にしろカバーが購入の大きなポイント
になっているのは間違いないです。
この作品のカバーは、ホントに作品の雰囲気を良く醸し出していて、
魅了されます。お気に入りのカバーです


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刻まれない明日 【三崎亜記】 [静かな物語の棚]

大好きな三崎亜記さんの作品。
三崎さんの作品の余韻を味わうには、時間があってゆっくり読め
るときがいいと思い、購入してからちょっと我慢して大切に読み
ました。

  刻まれない明日.jpg
  ▲ 刻まれない明日 (祥伝社文庫)
    ( ↑ amazonへはタイトルをクリックしてネ!)
    作者: 三崎 亜記
    出版社/メーカー: 祥伝社
    発売日: 2013/03/13
    メディア: 文庫

【 story 】

10年前、ある地方都市の一部が消滅。3095人の人々も一緒
に消え去った。原因は分からず、ただ、開発保留地区という呼ば
れる誰も住まない新しい地区だけが存在する。しかし、あたかも
消え去った彼らがそこに存在するかのように、消滅地区にあった
図書館の第5分館では本の貸出しが続き、消え去った住民の
ためのラジオ局“ひかりラジオ”にはリクエスト葉書が届く。
残された人々は、それらに消えた人々の息吹を感じていたが、
少しずつある変化が起こり始めていた・・・。

【「失われた町」のアナザーワールドのような作品】

町とともに大切な人々を失い、残されてされてしまった人々を
描いた連作短編。私が大好きな作品「失われた町」とこの作品
の世界は異なる世界のようですが、大切な人を失い、深い哀し
みの想い出を抱えた人々が、静かに現実を受け入れて、一歩
踏み出していこうとするところは同じ。この作品でも、残された
人々が、人との出逢いをきっかけに、止まっていた時間が動き
だし、そして新たに歩み出していきます。

「失われた町」と違うのは、残された人々が歩み出した先(未来)
をより強く感じさせるところでしょうか。「失われた町」と同じよう
な世界のため、当然、読後のインパクトは低くなってしまうかも
しれませんが、心地よい余韻が素敵な、心を温めてくれる素敵
な作品です。
序章から始まって各章のどれもが素敵な作品(あえて言うと、
私は第1章の“第五分室だより”と第3章の“紙ひこうき”が好き
かな)なのですが、やはり、新たな序章(最終章)の“つながる道”
の余韻が一番良かったですね (o^-')b
是非、穏やかな余韻に浸ってください。

【 plus+ 】

図書館で「海に沈んだ町」(2011.1)という作品をみかけました。
調べてみたら、「失われた町」や「刻まれない町」に連なる作品
だそうです。今年(2014)2月には、文庫(朝日文庫)も出版され
ているようなので、入手しよっ!
でも、“町”の物語をいっきに読んでしまうともったいないので、
しばらく時間を空けてから読もっかな


タグ:三崎亜記
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春を背負って 【笹本稜平】 [静かな物語の棚]

毎年、夏山登山をしているのですが、それに併せて山を舞台に
した小説を読むようにしています(登る少し前に読み始めて
テンションを上げ、山小屋にも持って行き長い夜に読みます)。
昨年が、新田次郎さんの「剱岳 点の記」(一昨年は、登山の
タイミングではありませんでしたが、夢枕獏さんの「神々の山嶺」
がとても素晴らしい作品)で、昨年に読んだ作品のベスト3に
入るくらい気に入った素晴らしい作品でした!
そして、今年の火打山・妙高山登山のお供はこれ。今年の6月
に映画も公開されたホットな作品です。

  春を背負って .jpg
  春を背負って (文春文庫)
   ( ↑ amazonへはタイトルをクリックしてネ!)
    作者: 笹本 稜平
    出版社/メーカー: 文藝春秋
    発売日: 2014/03/07
    メディア: 文庫

【 story 】

急死した父親の山小屋を継いだ長嶺亨。そんな亨の前に現れ
たのがゴロさんだった。右も左もわからない亨は、ゴロさんの
助けを借りながら、山小屋に居場所をみつけていく。
そして山小屋を訪れる人々。美しい四季を通して、亨は、悩め
る人々は、心を癒されていく・・・。

【 ハートウォーミングな物語 】

いつも山小屋に泊まるのですが、この作品はそういう山小屋が
舞台。険しい山を登る登山家などの困難を描いた作品と違って、
山小屋の日常の様子は見て知っていますし、春先には冬の風雪
に耐えた山小屋の修理が大変なこと、登山道も山小屋の関係者
がボランティアで修理したりしていることも知識としてありますし、
自分たちが飲んだり食べたりする食料等を頻繁に荷揚げする
のはかなり大変だろうと想像もしていたので、そんな様子が描か
れたこの作品はとても身近に感じました。

そして、この作品は、そんなただ身近な物語としてのみ良いと
いうことではなくて、主人公を心身の両面から支えるゴロさんと
の出逢いから始まり、美由紀との出逢い、そして、山を通じて
人々との繋がりや傷を癒やしていく姿などが描かれた、まさに
ハートウォーミングなストーリー。
きっと、山小屋を知らない人の心も温めてくれるであろう素敵な
作品です。心温まる作品がお好きな方にはお薦め!

【 plus+ 】

先日泊まった山小屋でのことです。
山小屋のご主人でしょうか、氷がいっぱいに詰まった大きな容器
を背負って到着したところに出会いました。その氷を飲み物を
冷やしている容器に入れているのを見て、私たちが山小屋で
冷たいビールや飲み物を楽しめるのは、こうした客には見せな
い苦労があるんだなっと思いました。


タグ:山岳小説
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珈琲屋の人々 【池永 陽】 [静かな物語の棚]

書店で本のタイトルを眺めて、どんなストーリーかを想像しながら
自分好みの作品を発見するのが好きです。
なので、読んだことがあるかないかは別にして、作家さんの名前は
たいがい知っているつもりでしたが、正直なところ、池永陽さんと
いう作家さんは知りませんでした ^^;
この作品は、書店のメディア化作品の棚で目に止まり、手に取って
みたもの。私好みそうな作品であることや、初めての作家さんとの
出逢いを求めていることもあって、躊躇せずに購入しました。
読んでみて、正に私好みで、大満足な作品でした (*^-')b

  珈琲屋の人々.jpg
  珈琲屋の人々 (双葉文庫)
       ( ↑ amazonへはタイトルをクリックしてネ!)
    作者: 池永 陽
    出版社/メーカー: 双葉社
    発売日: 2012/10/11
    メディア: 文庫

【 story 】

東京の下町の商店街にある喫茶店「珈琲屋」を細々と営む行介。
行介には、ある理由から人を殺した過去があった。
刑期を終え、父親の喫茶店を再開しようとした行介を手伝った
のは、幼なじみの冬子。かつての恋人だった冬子は、行介の
刑期が終わるのを待つかのように離婚し、この商店街に戻って
きていた。
罪の深さを心に抱え静かに暮らす行介の「珈琲屋」に、心に悩み
や傷を負った人々が訪れる・・・。

【 心温まる物語 】

人を殺した行為自体に後悔はしていないですが、その罪は償わ
なければならないと重い過去に正面から向き合い、罪を意識しな
がら生きる行介。
その謙虚な姿勢と、つらい過去があったからこそなのでしょうか、
珈琲屋を訪れる人々をやさしく見守る行介の人間的な深みが
物語をやさしく包み込んでいて、読んでいてほんわりと温かく、
心に染み入ってきました。

また、行介と冬子の静かな関係。
言葉には出さないけど、お互いがお互いを大切に想う気持ちが
伝わってきて、そういう意味でも心が温かくなる物語です。
冬子がどうして行介のことをそこまで大切に想うのかは描かれ
ていませんが、続編もあるようなので、まだ描かれていないの
なら、いずれ描いてもらえたらいいなと思います。

当然のことですが、小さな商店街にも人それぞれの人生があり、
私自身もそうですが、それぞれに思うことってあるのですね。
この作品は、7編の連作短編集ですが、行介や商店街の人々
の思いを通して、考えさせられたり、気持がほっこりさせられたり
する、温かくて素敵な物語です。


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アンチェルの蝶 【遠田潤子】 [静かな物語の棚]

読んだことのない作家さん。あらすじを読んでも重そうですし、私的
には、通常あまり飛びつく感じではないのですが、何だか妙に
気になって手に取った作品です。
実際、重い作品でしたが、こういう作品って実は好きで(過去に取り
上げた作品を見ていただくと分かるかもしれませんが)、惹き込ま
れました。

  ▼ 表紙の美しさに惹かれたのも、手に取った理由かもしれません。
    デザインがとても素敵(*^-')b

  アンチェルの蝶.jpg
  ▲ アンチェルの蝶 (光文社文庫)
    ( ↑amazonへは、タイトルをクリックしてネ! )
    作者: 遠田 潤子
    出版社/メーカー: 光文社
    発売日: 2014/01/09
    メディア: 文庫

【 story 】

大阪の港町で、細々と居酒屋を営む藤太。
そんな彼の元へ、ある日突然、中学を卒業以来、会うことのなかっ
た同級生・秋雄が少女を連れてくる。
その少女・ほづみの母親・いづみと、秋雄、藤太の間には、忘れ
ようとしても忘れることのできない記憶があった・・・。
ほづみと奇妙な共同生活を始める藤太。
しかし、秋雄が行方不明になり、そして、いづみも行方が分からなく
なっていることを知る。
秋雄に何があったのか、そして、いづみはどうしているのか。
沈滞していた藤太の時間が、否応なしに動き始める・・・。

【 再生とミステリ 】

過去のある出来事を境に、人生の全てを捨て去り、死人のように
どん底で生きてきた主人公。そんな彼の元に、飛び込んできた
ある人の娘。それは、色のない世界にひらりと舞い降りた美しい
蝶のように、主人公の沈む心の中に光を与えてくれます。
その娘との関わりを通じて、どん底から立ち直ろうと努力を始める
再生の物語。

同時に、
 藤太を束縛し続ける「過去の記憶」とは何なのか?
 秋雄はなぜ、ほづみを預けて失踪したのか?
 いづみに何があったのか?生きているのか?
少しずつ謎が明らかにされていくといったミステリ要素。

それらが混ざり合った物語に惹き込まれ、あっと言う間に読んでし
まいました。
ラスト!全ての謎が明らかにされ、哀しい現実を知った主人公は・・・
絶望と希望が描かれ重い作品ではありますが、懸命に生きる人が
描がかれた、このような作品は大好きです。

【 +plus 】

タイトルのアンチェルとは、有名な指揮者「カレル・アンチェル」のこと
だそう。波乱の人生を送った方のようです。
主人公の藤太が心の支えにし、そして、記憶とともに封印したのが、
アンチェル指揮の、ドヴォルザーク・交響曲第9番「新世界より」。
アンチェルの代表的な録音だそうです。
アンチェルについては、日本コロムビアに解説HPがありますし、
KING RECORDSでは、2013.11.27にNEWアルバムが発売され
ているほど。相当に素晴らしい演奏なのでしょうね。機会があったら、
是非、一度聴いてみたいです。


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獣の奏者 外伝 刹那 【上橋菜穂子】 [静かな物語の棚]

「外伝」というと、既に物語の結末が明らかになっており、エピソードが
本編に付け加えられる程度になってしまい、物語の深みもインパクトも、
そして感動も薄くなりがちですが、この外伝は、本編に劣らないほど
切なく、そして、感動した素敵な作品でした。

  獣の奏者 刹那.jpg
  ▲ この表紙は、とても素敵♪ センスがいいですよネ!
    
獣の奏者 外伝 刹那 (講談社文庫)
    ( ↑ amazonへは、タイトルをクリックしてネ♪)
    作者: 上橋 菜穂子
    出版社/メーカー: 講談社
    発売日: 2013/10/16
    メディア: 文庫

【 story 】

エリンの母ソヨンのエリンへの想いを描いた「綿毛」
エリンとイアルの再会、そして結婚、出産までを描いた「刹那」
恩師エサルの、若き日の秘めたる恋と人生を描いた「秘め事」
まだあどけないジェシとエリン、イアルの一瞬の幸せを描いた「初めての」
切なくて、でも、ほわっと心が温かくなる物語

【 “刹那”な物語 】

切なくて、心が温かくなって、涙が出てきた作品「刹那」
結ばれることが過酷な未来となることが分かっていても、お互いを
求めてやまず、その刹那(一瞬)の幸せを噛みしめ生きていく
エリンとイアル。
それぞれが孤独であるが故にお互い理解し、押さえきれぬお互い
への想い。生まれてきたことに後悔はしたくないと、運命に立ち
向かって行き、 苦難を覚悟しても子を生もうとする強さ、悲痛とも
いえる覚悟に圧倒され、二人の過酷な生き方に、やるせなくなり、
その強さに感動しました。
本編を更に深みを与える感動的な物語です。

ラスト。ジェシの出産には力が入りました。人の生はこんなにも、
尊く重いものなのかと感動すらしました。
過酷な人生が待っているのかもしれませんが、ここまで望まれて
生まれくる子は、きっと幸せだろうし、幸せになるだろうと思います。
軽く生きてしまっている自分を振り返って、今の幸せを、もっともっと
大切にしなければいけないと思いました。

切なく、寂しくて、でも、温かくて。
エリンたちの気持がグッと心に染み入ってきて、もう一度、読み
直したのですが、それでも涙が出てきてしまった素敵な物語でした。

【 +plus 】

文庫書き下ろしの「綿毛」は、ソヨンのエリンへの想いが伝わって
きましたし、「秘め事」もエサルの熱い想いを描いた素敵な物語で
した。そして、短い作品ですけど「初めての」も、とても心を温かく
させてくれます。
とても素敵な作品ばかり!本当に出逢えて良かったと思います。
本編を読んだ後に読んでいただきたいですが、最高にお薦めの
作品です♪


タグ:上橋菜穂子
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劒岳 〈点の記〉 【新田次郎】 [静かな物語の棚]

毎年、夏山登山をしています。山の天候はとても変わりやすいので、
比較的安定している午前中に登り、遅くとも午後2時や3時までに
山小屋に入るのが基本です。山小屋の夜は早く、午後9時や10時
には消灯になってしまうため、夕日を眺めたり、雄大な山々や高山
植物を見て楽しんだとしても、寝るまでには十分な時間があります。

そこで、美しい自然に囲まれながらゆっくり本でも読もう!そして、
それならやっぱ山の本がいいと思って持参したのがこの作品。
山岳小説は夢枕獏さんの「神々の山嶺」(非常にお薦め!)しか
読んだことがなく、しかも、新田次郎さんの作品を読むのは初めて。
読み始める前は自分の好みに合うか心配でしたが、非常に読み
やすくて、実話を基に描かれていることもあって、グイグイと惹き
込まれ、あっという間に読んでしまいました(さすがに山では読み
終わりませんでしたが)。
今年、これまでに読んだ中で一番の作品といえるかもしれません!
山に登らない人も十分に楽しめる作品だと思います。

  剣岳 .jpg
  劒岳―点の記 (文春文庫 (に1-34))
   ( ↑ amazonへはタイトルをクリックしてネ! )
   作者: 新田 次郎
   出版社/メーカー: 文藝春秋
   発売日: 2006/01/10
   メディア: 文庫

【 story 】

~点の記とは三角点設定の記録である。一等三角点の記、二等
三角点の記、三等三角点の記の3種類がある。三角点標石埋定
の年月日及び人名、覘標(観測用のやぐら)建設の年月日及び
人名、測量観測の年月日及び人名の他、その三角点に至る道順、
人夫賃、宿泊設備、飲料水等の必要事項を集録したものであり、
明治21年以来の記録は永久保存資料として国土地理院に保管
されている~

明治39年9月。測量の仕事を終え、半年ぶりに陸地測量部に
帰ってきた測量士の柴崎芳太郎は、帰る早々、陸地測量部長で
ある大久保少将から呼び出しを受けた。
少将の指示は、まだ測量がされていない中部山岳地域の測量、
そして、山岳会より先に未登の山、越中剣岳に測量隊の旗を立て
よというものだった。
明治40年、柴崎は案内人・宇治長次郎らとともに、数々の困難
と闘いながら、剣岳山頂をめざす!

【 実話が基だからなおさら感動! 】

ただ、単純に剣岳登頂や三角点設置を語っただけの物語でしたら、
これだけ惹き込まれなかったかもしれません。

“誰もが不可能と言うような剣岳に初登頂することはできるのか?”
“山岳会より先に登頂できるか?”

次々に主人公たちの前に立ちふさがる困難に、それをどのように
乗り越えていくのかと読むのをやめることができず、未踏とされて
きた剣岳の真実への興味も加わって、あっという間に読み終えて
しまいました。
剣岳初登頂、三角点設置にかけた男たちの“静かな”でも“熱い”
思いがひしひしと伝わってきて、困難に直面しても、職務遂行の
ために淡々と職務をこなしていく、そんな主人公たちの努力と忍耐、
そして高い使命感で達成していく実直な人間性にも惹かれました。

実話が基なので、その主人公たちの姿勢になおさら感動しました! 

【 新田版「点の記」 】

信じられないことですが(よく考えれば当然ですが)、明治の頃
までは、日本国内にもまだ未踏の場所があったんですよね。
今でこそ、日本全国どこのものでも詳細な地図が手に入りますが、
その地図の作成の裏にこれほど先人たちの苦労が隠されていた
ことに驚きました。
正確な地図を作成するため、重い機材を運びながら道なき山々に
足を踏み入れ、しかも半年以上をかけて山々を歩き回り、三角点を
設置し測量を繰り返す作業。想像するだけでも体力と忍耐のいる
大変な作業だったかと思います。
しかも、陸軍の威信のため、山岳会より先に剣岳の頂を踏むという
使命まで課されていた柴崎芳太郎たちにとって、その困難さは
なおさらだったことと思います。

しかしながら、これほど困難な仕事をやり遂げながら、剣岳は
4等三角点となったという1点をもって、何ら公式の記録(点の記)と
して残らず・・・。何か悲しいですね。このような歴史の表舞台に
登場することのない出来事というものは、これまでの人間の歴史
の中でいくらでもあるのでしょうが、このように困難をやり遂げた
快挙は社会的に評価されるべきであり、どのような形であれ
快挙に光を当て、後生に記録が残されるのはすばらしく、嬉しく
思います。
新田次郎さんが自ら書かれている“あとがき”(作品の裏話が載って
いておもしろいんです!)を読んでも、細かな部分にフィクションは
多いのかもしれませんが、おおまかな史実は丁寧にたどっている
様子。この物語は正史ではありませんが、サブタイトルのとおり、
歴史の裏に隠された事実に光を当てた「点の記」(記録)であり、
その点だけをとっても非常に意味のある作品だと思います。

山岳小説はおもしろいの??っと躊躇していた私が言うのもなん
なのですが、本当におもしろい魅力的な作品です。
未読の方は、是非とも読んでみてください。非常にお薦めです

【 episode+ 】

これまでも登山をしていて三角点を見かけることが何度もありました。
どうして山頂とは離れた平坦な場所に三角点を設置しているのだろう?
などと不思議に思っていましたが、そのような場所に設置されている
理由や、昔は三角点設置の裏にこんなドラマがあったのかと思うと、
三角点を見る目が変わりました。
今年の夏山登山でも2か所で三角点を見かけているのですが、その
傍を通り過ぎるとき、この三角点を設置するときも、もしかしたら史実
には残っていない苦労が秘められているのかもしれないなっと想像し
たら、何だか三角点が特別なものに見えました。


タグ:山岳小説
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吸涙鬼 【市川拓司】 [静かな物語の棚]

市川拓司さんの作品って、とても繊細で大好きです。
この作品も、少し触れたらパリンと崩れ落ちてしまいそうな繊細な
二人の恋物語。
出逢った二人が密かに惹かれあい、想いを抑えようとしても抑え
きれなくて、静かに、静かに葛藤している・・・。そして、想いが通じ
合っても・・・  そんな物語です。

  吸涙鬼.jpg
  ▲ 文庫よりハードカバーの表装のが好きなので♪
  
吸涙鬼 (講談社文庫) 
  ( ↑ amazonへはここをクリックしてネ!
  作者: 市川 拓司
  出版社/メーカー: 講談社
  発売日: 2012/10/16
  メディア: 文庫

【 story 】

治療法がない病気のため、20歳までしか生きることのできない
17歳の美紗。それが運命と受け入れ、静かに生きていた美紗の
前に、不思議な雰囲気の転校生・榊冬馬が現れる。冬馬の中に
ある繊細な心に自分との共通点を見つけ、美紗は惹かれるのだった。

満月の夜、大好きな校舎の屋上庭園に密かに忍び込んだ美紗は、
意識を失ったところを冬馬に助けられる。翌日彼のコテージを訪ねた
美紗は、20歳で死ぬ病気に罹っていることを冬馬に告白する。
それを機会に少しだけ接近する二人。しかし、冬馬は何かから逃れる
ように転校してしまう。
次第に病気が進行し、病室のベッドで眠り続ける日が増えていく美紗。
ある日、そんな美紗のもとへ冬馬が現れる。そして、彼は美紗の病気
を治すというのだった・・・。

【 繊細 】 

運命の出逢いとか、たとえ離れても、深く心が結びつき合っている、
そんな関係って憧れます。私自身は現実主義者だと思っているので、
そんな関係って幻想、もし幻想ではなくても、ほとんど奇跡に近いもので、
決して自分が経験することのない世界だと理解しているつもりです。
でも、それが夢物語だと理解していても、透明で、清く澄んだ物語に
触れていると、なんだか自分の心まで透明に、澄んだような気持になり
ます。そこが心地よくて、またこういう物語を探してしまうのかも…。

でもでも、そんな心地よい作品ってなかなか見つからないんですよネ。
この物語は久しぶりに出逢えた、とても心地よくなれた素敵な作品でした。
お薦めです♪


タグ:市川拓司
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瑠璃の雫 【伊岡 瞬】 [静かな物語の棚]

心にずっしりと感動が染み込んでくる素敵な作品で、心が洗われ
たかのように、読後、清らかな気持となりました。
「瑠璃の雫」というタイトルからかもしれませんが、透明でやさしい
輝きを放つ印象の美しい物語でした。

瑠璃の雫_s.jpg
瑠璃の雫 (角川文庫) (←amazonへはタイトルをクリックしてネ!)
作者: 伊岡 瞬
出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
発売日: 2011/07/23
メディア: 文庫

【 story 】

アルコール中毒で入退院を繰り返す母親、幼い下の弟の命を
奪ったかもしれない弟と3人で暮らす小学6年生の杉原美緒。
そんな家庭環境に周囲へ心を閉ざした美緒は、母親のいとこ・
薫の知り合いである初老の元検事・永瀬丈太郎と知り合う。
寡黙であるが心の温かな丈太郎との交流を通して美緒は少し
ずつ心を交わしていく。
しかし丈太郎には娘を誘拐されているという、心に大きな傷を
抱えていたのだった・・・。

 ※ これより先は物語の核心に触れているので、未読の方は
  ご注意ください。

【 “心”が描かれた作品 】 

瑠璃を誘拐した犯人は誰なのか?
なぜ誘拐されたのか?

美緒が真実に迫っていくところはミステリーとして惹き込まれまし
たが、その中で、丈太郎の心の奥底に秘めていた“想い”をたど
っていくところには、特に物語にぐっと惹き込まれました。
そして、丈太郎の心の奥底にだけ押し込まれていた事実が明らか
になったとき、涙があふれてしまいました。
娘を誘拐した犯人を目の前にして、人はここまで感情を抑える
ことができるのでしょうか。ましてや、愛娘が殺されている事実を
確信してまで・・・。黙して語らないからこそ、丈太郎の悲しみが
ズシリと伝わってきてきました。心に響く作品です。

そしてもう一つ、描かれているのが美緒の心。
固く閉ざす原因となった事実に隠された秘密が・・・。

視点は美緒だけですが、丈太郎と美緒の二人につい描かれ、
飽きさせることなく物語に惹き込まれます。
どちからというと重々しく、決して明るい物語ではないけど、しっとり
静かなとても素敵な作品でした。


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