猫を抱いて象と泳ぐ 【小川洋子】 [静かな物語の棚]
小川洋子さんの作品を読むと、シンとした静寂の中を、息を潜めて
物語が流れていくような印象を受けます。
このBlogでも以前取り上げた、「沈黙博物館」や「薬指の標本」でも
同じ印象。
たまたま、そのような傾向の作品しか読んでないからなのかな?
そして、この「猫を抱いて象と泳ぐ」も、そんな静寂な雰囲気を持つ
物語です。
【 story 】
ロシアのグランドマスターで、棋譜(動かした手を記録したもの)の美しさ
から、“ 盤上の詩人 ”という称号まで与えられた伝説のチェスプレイヤー
「アリョーヒン」になぞられ、「 リトル・アリョーヒン 」と呼ばれた少年の物語。
チェスに魅せられ、どのような相手であっても、棋譜の美しさを追い求め、
チェスという大海の中を静かに泳ぎ、時に身を任せ、人知れず至高の
棋譜を次々と残していく・・・。
【 物語の美しさ 】
この小説は、まるで透明でやわらかな光が包み込んでいるよう。
とても美しい物語です。
柔らかく温かい懐で少年にチェスを教えてくれた「マスター」、
彼の傍らでずっと棋譜を書きつづった、肩に白い鳩を載せた少女「ミイラ」、
そして、遠くから彼を支えてくれた「老婆令嬢」。
言葉が少なくても、チェスを通して結び付いた彼らと「リトル・アリョーヒン」の
関係は、いっそうこの物語を美しくしています。
そして、読んでない方には何のことか分からないと思いますが、「ミイラ」との
手紙のやり取りが、静かな余韻を残しました。
三つ折りにされた便箋が一枚出てきた。そこには、時候の挨拶も、
近況報告も、署名もなく、ただ真ん中に、
【e4】
とだけ記されていた。忘れようもないミイラの筆跡だった。
一週間後、リトル・アリョーヒンは返事を書いた。
【c5】
それが彼の返事だった。
たったそれだけの文字の中に、少年とミイラの想いがこれ以上ないほど
込められていて・・・。
こういう、小川さんの世界は、人によってはもしかしたら好き嫌いがあるかも
しれませんが、私はこういう小川さんの世界が本当に大好きです。*^^*
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