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カラヴィンカ 【遠田潤子】 [最近の素敵な本の棚]


 遠田潤子さんの作品は
   気力が充実しているときでないと読めない。

 「アンチェルの蝶」を読んだとき、その喪失と再生の物語に、
とても魅了され感動する一方、ストーリーの重さに読後ぐったり
として、こう思いました。そんな訳で、遠田さんの代表作とも
言われる「雪の鉄樹」も発売直後にすぐ入手しながら、まだ読ま
ず(読めず)・・・。でも、この作品は、本屋さんで手に取って、
出だしを数行を読んだだけで惹き込まれてしまい、気力などと
考えることなく買いました。

  カラヴィンカs.jpg
 ▲ 赤く染まった羽根が、カラヴィンカを象徴してます☆
   カラヴィンカ (角川文庫)
  •   ( ↑ amazonへは、タイトルをクリックしてネ!) 
       作者: 遠田 潤子
  •    出版社/メーカー: KADOKAWA
  •    発売日: 2017/10/25
  •    メディア: 文庫

【story】

 「・・・多聞?」
 深夜に青鹿多聞に掛かってきた電話の声。高音と低音が重なり
合って、こすれて震えた。歌っていなくても、歌っているように
聞こえる。そんな実菓子の声だった。 歌詞のない旋律を母音のみ
で歌う「ヴォカリーズ」として絶大な人気を誇る歌手・実菓子。

 「この女は最低だ。惑わされるな」
 彼女との関わりを絶とうと自分に言い聞かせる多聞に持ち込ま
れた仕事は、その彼女の自伝のインタビューだった。幼い頃から
一緒に育ち、義理の弟であり、実菓子のバックギタリストでも
あった多聞。次第に、実菓子、多聞の兄・不動、そして多聞を
めぐる過去の哀しい出来事が明らかになっていく・・・。

【ラストの余韻を味わって欲しい作品】

 「私には言葉がない」
 実菓子にはなぜ言葉がないのか。多聞はなぜここまで激しく
実菓子を憎むのか。過去をたどる中で、隠された想い、哀しみ
が次第に明らかになっていき、そして・・・。

 詳しくは書けませんが、冒頭からラストまで、多聞の、実菓子
の、そして不動のそれぞれの想い、刹那さがじわりじわりと染み
込んでくるような作品でした。特にラストは丁寧に読んで、物語
の余韻をじっくりと味わっていただきたいです (*^-')vイイ!
 改題前のタイトルは「鳴いて血を吐く」。まさに、そんな印象
の物語です。

【+plus】

 タイトルの「カラヴィンカ」(迦陵頻伽・かりょうびんが)とは、
上半身が人で、下半身が鳥の仏教における想像上の生き物。殻の中に
いる時から鳴き出し、極楽浄土に住むとされており、その声は非常に
美しく、仏の声を形容するのに用いられるそうです。

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義弟(おとうと)【永井するみ】 [最近の素敵な本の棚]

 本屋さんで偶然に出逢った作品。正直なところ、あまり好み
のカバーデザインではなく、永井するみさんの作品も過去に1、
2作を読んだことがあるだけ。全くの偶然の中で帯の紹介が私の
琴線に触れて手に取り、背表紙のあらすじに惹きつけられ、他の
書棚に行っても気になって、それで購入しました。
 まさに好みの作品。磁力で引き寄せられたという感じです。
こういう本との出逢い方は、きっとネットではできないですよね。

 義弟s.jpg 
 ▲ 物語の象徴的なシーンです!
   義弟 (集英社文庫)
  •    ( ↑ amazonへはタイトルをクリックしてネ!)
        作者: 永井 するみ
  •     出版社/メーカー: 集英社
  •     発売日: 2019/05/17
  •     メディア: 文庫

 
【 story 】
 ー 限界だ、助けてくれ -

 家に火をつけて、父と義理の母ごと全部燃やしてしまおうと
した高校生の克己。それを止めたのは、深夜に急に帰って来た
東京にいるはずの血の繋がらない姉、彩だった。克己の苦しみ
を感じ取った彩は、克己をバイクの後ろに乗せて疾走させる。
そして・・・。

 テレビのコメンテーターとして人気弁護士となった彩と人気
スポーツインストラクターとなった克己。二人は深く心が繋がっ
ていた。
 ある夜、彩と密会していた男性が突然死する。彩から助けを
求められた克己は、事故死を偽装するが・・・。


【 複雑な心情を描き出す素敵な作品♪ 】

 すべてを壊してしまいたい、何もかも消してしまいたいと
いう抗い難い衝動。そして、彩の窮地にも関わらず、彩の役に
立つことができた達成感と爽快感。そして守ることができた
満足感・・・。
 そんな克己の複雑な、心の奥底に潜む思いに対して、その
気持がなんとなく共感できるというか理解でき、そして、私の
中にも通じるところがあって、心を揺さぶられながら読み進め
ました。
 克己への共感だけでなく、二人が行き着く先が破滅なのか...
読み進めるのを止められませんでした。

 「心の闇を抉(えぐ)り出す衝撃作」
背表紙のあらすじには、最後、そう締めくくられていますが、
混沌ともいえる複雑な心情をみごとに描き出した素晴らしい
作品。久しぶりに、読み応えのある作品に出逢えました。
お薦めです(^-^ b グッド!

【 +plus 】
 この作品を手に取るきっかけとなった帯の裏には、
「これほど素晴らしい作家・作品には、そう頻繁には出合える
ものではないー」
とありました。まさに、私もそんな印象を持った作品でした。

【++plus】
 昔読んだ永井するみさんの作品は「グラデーション」(Link)
という作品でした。感動を思い出しました (*^-')b

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天翔る 【村山由佳】 [最近の素敵な本の棚]

 最初、あらすじを読んだとき、乗馬競技を描いた物語ということで、
少々、躊躇しました。実は、動物の物語って、何となく苦手なところ
もあって ^^;
 でも、この作品は、先入観だけで決めずに、読んで本当によかっ
たです。素敵な作品でした。

    ▼ 表紙も素敵なデザインですネ(*^-')bスキ!
    天翔るs.jpg
    ▲ 天翔る (講談社文庫)
     ( ↑ amazonへはタイトルをクリックしてネ!)
      作者: 村山 由佳
      出版社/メーカー: 講談社
      発売日: 2015/08/12
      メディア: 文庫

【 story 】

 札幌で大好きな父と2人で暮らす少女“まりも”。まりもが小学5年
生のとき父が事故で亡くなり、祖父母と暮らすが、学校でいじめに
あう。祖父母に心配をかけまいと、おなかの痛みに耐えて学校に
通うまりもだったが、ついに身体に変調を来し、道でうずくまってし
まう。そんなまりもを助けたのが看護師の貴子だった。
 まりもと知り合った貴子は、自分が通う牧場(ランチ)へとまりもを
誘う。そこで待ち受けていたのは風変わりな牧場主・志渡と馬たち。
まりもは、乗馬を始め、そして、乗馬耐久競技・エンデュランスに
出逢う―。

【 さわやかで、心地いい作品♪ 】

 まりもだけでなく、貴子も志渡もそれぞれが心に傷を抱え、痛みに
耐えています。そんな彼女らが、エンデュランスという競技を通して、
心の傷や葛藤を乗り越え、未来を見つめようとする姿が清々しく描
かれています。
 まりもも貴子も志渡も、心の傷の痛みを知っているからでしょうか、
みんながやさしく、特に、まりもを見守る貴子や志度のあたたかかさ、
やさしさが伝わり、そこに、エンデュランスという馬を思いやる競技
が舞台に描かれていることもあって、物語全体がやさしさで満ちて
いて、感動してと、読んでいて、さわやかで、非常に心地いい作品
でした。すごくお薦めの作品です!☆!

【 +plus 】

 <To Finish is To Win>(完走することが勝つこと) 

 “エンデュランス”とは、野山にめぐらされたルートを馬でたどり、
ゴールまでのタイムを競う競技。デヴィス・カップ・ライドというアメリカ
のレースは100マイル(160キロ)を1日で走るそうです。ただし、
闇雲にタイムを求めるのではなく、馬を思いやり、馬の状態を感じ
取りながら過剰な負担をかけずに走らせる。しかも、レース途中で
何回も獣医による健康状態のチェックが行われ、状態が悪ければ
失権になるのだそう。まさに「完走することが勝つこと」という馬に
やさしい競技で、上位で完走した馬たちの中で、最も健康状態の
良かった1頭には、ベスト・コンディション・ホース賞という優勝以上
の名誉のある賞が与えらるのだそうです。
 レースが描かれた作品というと、勝敗や駆け引きなどの緊迫感に
満ちたような作品もありますが、この物語は、まりもたち登場人物
たちが皆、やさしさ、思いやりにあふれているところに、競技自体
もやさしさに満ちているので、作品全体の雰囲気も、とてもやさしく、
さわやかになっているのでしょうネ。


タグ:村山由佳
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消失グラデーション 【長沢 樹】 [最近の素敵な本の棚]

最近、青春ミステリ的な作品を読んでいなかったので、手にとって
みました。登場人物たちがしっかり描かれていて、ミステリも本格的!
なかなか、おもしろかったですヨ

  消失グラデーション.jpg
  ▲ 消失グラデーション (角川文庫)
    ( ↑ amazonへはタイトルをクリックしてネ!)
    作者: 長沢 樹
    出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
    発売日: 2014/02/25
    メディア: 文庫

【 story 】

藤野学院高校の男子バスケ部に所属する僕・椎名康(コウ)。
僕は、ある日、チーム内で孤立する女子バスケ部エース・網川緑
と校舎の屋上で会話を交わしていたが、その場を少し離れた隙
に網川が転落する。
 ― セーターとブラウスの肩口を血に染め横たわる網川 ―
彼女の元へ駆けつけ、助けようとする僕だったが、後ろから首を
羽交い締めされ気を失ってしまう。そして気づいたとき、血痕だけ
残し、緑の姿は忽然と消えていた・・・。
半年ほど前にあった不審者・通称ヒカルの侵入事件以降、監視
カメラなどをセキュリティが強化された校内。そこで起こった謎の
消失事件に・・・。

【 登場人物が丁寧に描かれてます! 】

冒頭のシーンを読んだ時、軟派な主人公の、軽い物語かなっと
思ったのですが、読んでみたらこれがなかなか。主人公は、意外と
ウジウジと悩みまくっていますし、青春しています(笑)
物語が始まって、なかなか「消失」にまで至らないのですが、主人
公や先輩・同級生たちとの関係が丁寧に描かれており、事件が
起こらなくても飽きさせませんでした。
そして、いざ「消失」が発生し、
 なぜ、網川の姿が消えたのか? 網川の隠された悩みとは?
といった謎で、物語に惹き込まれました。
個人的には、苦手な描写(○○カット)もありましたが、味のある青春
小説として、なかなかのお薦めです。

【 +plus 】

この作品は、
 第31回横溝正史ミステリ大賞(2011年)
 2012年版 このミステリーがすごい!第6位
 2012 本格ミステリ・ベスト10 第6位
だそう。評価の高い作品です。

そして、この「消失グラデーション」で探偵役となった樋口真由を主人
公にした(っというか“消失”シリーズと名付けられた)
 「夏服パースペクティヴ」と「冬服トランス」(いずれも単行本)
という作品も刊行されていますヨ!

  夏服パースペクティヴ.jpg
  ▲ 夏服パースペクティヴ (樋口真由“消失”シリーズ)
    ( ↑ amazonへはタイトルをクリックしてネ!)
    作者: 長沢 樹
    出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
    発売日: 2012/11/01
    メディア: 単行本


ブラックスワン 【山田正紀】 [最近の素敵な本の棚]

山田正紀さんの名前はSF作家さんとのイメージが強く、お名前は
知ってはいましたが、作品を読んだのはたぶん初めて。
初めてこの作品の表紙を目にしたとき、黒を基調としたデザイン
にグッと惹きつけられ、背表紙のあらすじを読むと正に私好み。
  「編集・営業が選ぶ これが売りたいフェア」
と帯に書かれていたこともあり、期待して読み始めました。
読んでみても、かなり私好み!とても面白かったです!!

  BlackSwan_s.jpg
  ▲ 表紙は写真のようです。素晴らしい!amazonでは、古い
   表紙が表示されています。かなりイメージが変わりますね。
    
ブラックスワン (ハルキ文庫)
    ( ↑ amazonへはタイトルをクリックしてネ!)
    作者: 山田 正紀
    出版社/メーカー: 角川春樹事務所
    発売日: 1999/03
    メディア: 文庫

【 story 】

静かに雪の降る湖。降りしきる雪がモヤのようにかすみ、遠くに
白い雪に覆われた山脈がぼんやりと浮かび上がっている。
湖の岸辺には7人の男女が立っていた。

少女のひとりが澄んだ声をあげた。
 ― あれを見て。
 ― 黒い白鳥。ブラックスワンよ。

その18年後、世田谷の閑静な住宅街にあるテニス・クラブで、
白昼、女性の焼死事件が発生する。焼死したのは橋淵亜矢子。
旅行先の瓢湖でブラックスワンを見たうちの一人で、その直後
から行方不明になった女性だった・・・。  

【 謎を楽しむ作品 】

少し古い作品なので、ミステリのトリック自体は古く感じるところも
ありましたが、この作品はトリックを楽しむというより、
  どうして橋淵亜矢子は失踪することになったのか ―
  7人の間に何があったのか ―
という謎(疑問)を楽しむ作品といった方がいいと思います。
ですので、トリックの古い印象は、ほとんど気になりませんでした。
そう考えると、この物語のメインとなる人と人との関係や感情、
想いというものは、今の感覚と共通するもので、こういうものは
いつの時代も変わらないものなのかもしれませんね。

瓢湖へ白鳥を見に行った7人の男女が抱えていたそれぞれの
想い、それが手記によって徐々に明らかにされ、謎(疑問)が
解き明かされていくところにグイグイと惹きつけられ、あっという
間に読んでしまいました。ホントおもしろかったです(*^-')bグッド

【 +plus 】

こうしてみると、読むことのなく、通り過ぎてしまっている素敵な
作品がきっとまだまだあるのだろうなと思います。
最近、書かれたのがちょっと古い作品が再評価されることも
多いですが(私は佐々木丸美さんの「雪の断章」や「崖の館」が
お薦め)、もっとそうした素晴らしい作品が再評価されるといい
なと思います。
古くても、素晴らしいものは素晴らしいですネ O(≧∇≦)Oイイ !


海賊とよばれた男 【百田尚樹】 [最近の素敵な本の棚]

出光興産の創業者・出光佐三氏の人生を描いた作品。
上巻は戦中・戦後混乱期における会社創業期が、下巻に戦後復興期に
おける会社復活が描かれています。
第10回本屋大賞受賞作(2013年)。読んで損はない!お薦めの作品
です(*^-')bスバラシイー!

  海賊とよばれた男1.jpg海賊と呼ばれた男2.jpg
  ▲ 海賊とよばれた男(上) (講談社文庫)
    ( ↑ amazonへはタイトルをクリックしてネ!)
    作者: 百田 尚樹
    出版社/メーカー: 講談社
    発売日: 2014/07/15
    メディア: 文庫

【 story 】

石油会社「国岡商店」の店主・国岡鐵造。
彼は、国内大手石油会社からの締め出しを受けながらも、海外に
活路を見つけ、家族である社員たちと一丸となって幾度もの倒産
の危機を乗り越えてきた。しかし、敗戦により何もかもを失い、
残ったのは借金のみ。売る石油もない・・・。
しかし、鐵造は「ひとりの馘首(※クビ)もならん!」として、社員を
一人たりとも解雇せず、ラジオの修理や旧海軍の残油を浚うなど
して窮地をしのぎ、社員たちのため、国の再生のために社員たち
と奮闘していく!

【 主人公の人間性に魅了される作品 】

この作品は、小説というより、創業者の人生をなぞった作品という
感じ。小さな個人商店から立ち上げ、国内有数の企業になるまで
の創業者の戦いが描かれています。
この作品の最大の魅力は、百田さんの筆力もあるのでしょうが、
それ以上に、主人公の波乱な人生、生き方、人間的な魅力に
魅せられるところの方が大きいのではないでしょうか。それほど、
何度も倒産の危機に負けじと立ち向かい、大胆な発想と決断力、
行動力で乗り切っていく主人公の生き方には魅了されます。
あまり描かれていませんが、主人公の先見の明は、いろいろな
ことを熟慮された結果だったのではないでしょうか。

ただ、間違ってはいけないと思うのは、主人公と対立する者たち
が器量の乏しい、私利私欲ばかりを追う者たちのように描かれて
いますが、世の中には正義がたくさんあって一つだけではなく、
主人公の正義だけが絶対的な正義ではないということ。
あとがきで堺屋太一さんが解説していますが、物分かりの悪い
官僚にも、メジャー傘下に入った大手卸にも、それぞれの正義が
あって、苦汁の決断があって、決して、主人公の正義の物差しだけ
で歴史を判断してはいけないのだと思います。

【 現代史の一端を知ることができる作品 】

ところで、戦後復興期を描いた下巻。無知な私でも耳にしたこと
のあった「日章丸事件」が描かれており、日本の石油事情や、
その裏にあった世界情勢を知り驚きました。
この作品は、会社や創業者等の名前をわざわざ変えて「小説」と
して描いているので、どこまで真実でどこまで脚色されているかは
分かりませんが、出光興産創業者の存在が、現在の中東との
関係や国内の石油情勢に少なくない影響を与えているのは間違い
ないようです。

主人公の波瀾万丈の人生にドキドキワクワクするだけでなく、
戦中戦後の現代史の一端を知るという意味でも楽しめる作品だと
思います。
それにしても、今の世の中、これだけの傑出した人物が存在する
のでしょうか。主人公の器の大きさには驚きを通り越して感動すら
します。凄すぎます!!


ねえ、委員長 【市川拓司】 [最近の素敵な本の棚]

いつも思うのですが、市川拓司さんの物語は透明で、繊細で、
純粋であたたか。こういう物語に触れていると、自分の心も
浄化されるかのようで、やみつきになります。
なので、新作や文庫化をいつも気にしているのですが、この
作品のタイトルを見たときは、正直なところ、よくある青春物語
のような印象であまり惹かれませんでした。
でも、“あの”市川拓司さんの作品。そんなわけはないだろうと
思い直し手に取ったところ・・・。3つの短編からなりますが、
いずれもとても私好み!素敵な作品でした。

  ▼ 素敵なカバーですよね!オシャレ♪
  ねえ、委員長.jpg
  ねえ、委員長 (幻冬舎文庫)
   ( ↑ amazonへはタイトルをクリックしてネ!)
   作者: 市川 拓司
   出版社/メーカー: 幻冬舎
   発売日: 2014/04/10
   メディア: 文庫

【 story 】 

一人だけの陸上部に所属し、長距離走の得意なわたし。
いじめられっこの祐希。彼が歌の上手いことをたまたま知った
わたしは、少しずつ話すようになる。そんな彼が、校内マラソン
で10位以内に入ることを約束させられたことから・・・。
                            (Your song)
目立たないように、浮かないように自分に嘘をつき演じる転入生
のぼく。絵の才能があって、黒板にすら素敵な絵を描ける彼女。
いじめられる彼女をはげましたくて、ぼくは1通の手紙を下駄箱
に入れる・・・。
                             (泥棒の娘)
周りの期待に反しないよう品行方正、成績優秀でいる学級委員
長のわたし。体調を崩して道端に座り込んでいたわたしに声を
かけてくれたのが鹿山くんだった。成績がぎりぎりの彼から勉強
を教えて欲しいと頼まれたのと交換条件に、わたしの薦めた
小説の感想を聞かせてもらうことを約束する。やがて、小説を
書き始めた彼。その小説を読んだときわたしは・・・。
                            (ねえ、委員長)

【 心が純化されていく感じ 】 

この物語は、市川拓司さんの透明で、繊細で、純粋なところに
“爽やかさ”も加わった感じ。触れば割れてしまいそうなガラスの
ような純粋な心を抱え、世の中に満ちた悪意につまずき、時には、
粉々に砕けてしまいそうになるくらい傷つきながら、懸命に居場所
を探している主人公ら。少しでも異質な者を攻撃し、排除しようと
する社会の中で、理解されない異端として、彼らの声なき悲鳴と
窒息しそうなほどの息苦しさが伝わってきます。

しかし、この物語が、それほど息苦しさを感じさせず、爽やかなの
は、自分たちが理解していればいいと思う強さと、お互いの心と
心が深く結び付き合っているから。そして、彼らの心の悲鳴を
意識しすぎず、暗い印象にならずに安心して読み進められるのも、
時を隔てて二人が再会し(ようとし)、明るい二人の出発を暗示させ
るようなプロローグから物語が始まるからかもしれません。
この作品は、タイトルから受けた印象のような青春物語、あるいは、
出版社が紹介するような恋愛小説という枠には納まらなくて、
上手い言葉が見つからないのですが、それより、社会から外れて
ると言われそうな人に、

 “頑張って行きていこ!きっと、誰かが君を理解してくれるよ。
  そして、その先には光が必ず待っているよ”

とエールを送っている印象の作品です。
いずれも、心が美しく純化されていくような素敵な作品。あえて
選ぶなら、私は「ねえ、委員長」が一番好きかな。

【 plus+ 】

市川拓司さんの作品の、主人公たちの会話も好き。
どうでもいいかのように、表面的な会話を交わしているようであり
ながら、その裏にたくさんの想いがつまった不器用な会話。そんな
会話や、主人公たちの間に存在する空気が、市川作品の独特の
雰囲気を醸し出しているのかもしれません。


タグ:市川拓司

吉祥寺の朝日奈くん 【中田永一】 [最近の素敵な本の棚]

5つの短編からなる作品。
もちろん作品間で好みとそうでないものの差はあるけど、総じて
私好みの作品ばかり!
特に私のお気に入りなのは、“三角形はこわさないでおく”かな。

  吉祥寺の朝日奈くん.jpg
  吉祥寺の朝日奈くん (祥伝社文庫)
  ( ↑ アマゾンへはタイトルをクリックしてネ)
  作者: 中田 永一
  出版社/メーカー: 祥伝社
  発売日: 2012/12/12
  メディア: 文庫

【 story 】

高校1年の初夏、ツトムと知りあった。
容姿が良いだけではなく、トップクラスの足の速さ。授業では
英語教師による英語の質問に英語で返答してしまう。ただ、問題が
あるとすれば、だれとでも、積極的に関わりあおうとしないところ。
クラスメイトにしてみれば、彼はすこし近寄りがたい。

本格的な夏になるころには、廉太郎は彼のことをツトムと呼び捨て
にし、二人で廊下を歩き、いっしょに授業をさぼり、屋上にねころ
がって雲をながめてすごしたりした。

そんなツトムの様子がおかしくなったのは、9月に入り学校が再開
して2週間ほどすぎたころだった。
彼が気になったのは、うなじが空気にふれるくらい短い髪型のクラス
メート。彼女の周囲にある空気は、あわい色の朝顔のよう、あるいは、
色のついたガラス瓶や、それをすかして影のなかにできる光のよう
だった。
そして、いつしか廉太郎も彼女が気になっていることに気づくが・・・。

                ( 「三角関係はこわさないでおく」より )

【 絶妙♪ 】

この “三角形は…” は、5編の中では長めの作品。
変に“恋愛”とか“友情”をこの年代の大問題として描くのではなく、
重すぎず軽すぎず、何というか力抜け加減が絶妙!
しかも、描かれる“三角形”は微妙なバランスで、そのバランスも
また絶妙!
さらに、ラストの終わり方がちょっと物足りない感じなんだけど、
でも、その物足りなさもすごくいい感じなのです(*^-')b

この “三角形は…” に限らず中田作品は、全体的に、ゆっくりとした
落ち着いた時の流れの物語が多くて、心地よさを感じます。
また、熱くなりすぎず、ちょっと一歩引いて、自分のことを他人事の
ようにドライに見ているところも好き!
そしてストーリーも、さらっと終わらない、ちょっとしたヒネリがある
ことが多くて、そこがちょっと楽しみなんですよね!

中田作品を読んだのは、「百瀬、こっちを向いて。」(Link)、「くちびる
に歌を」に続いて3作品目ですが、みんなすご~く好みです。


さよならドビュッシー 【中山七里】 [最近の素敵な本の棚]

音楽をめぐるミステリーって好きです。
昔読んだ、赤川次郎さんの『赤いこうもり傘』が大好きで、その
好印象が残ってるのかも。
この作品は、新聞広告で続編の「おやすみラフマニノフ」という
作品を知って、まずは・・・と思ったことから。
この作品は、第8回「このミステリーがすごい!」の大賞受賞作と
いうだけあって、とてもおもしろかったです (o^-')bグー!

さよならドビュッシー_s.jpg
さよならドビュッシー (宝島社文庫) (←amazonへはタイトルをクリックしてネ!)
作者: 中山 七里
出版社/メーカー: 宝島社
発売日: 2011/01/12
メディア: 文庫


【 story 】

ピアニストをめざし、音楽科への推薦が決まっていた遥。
そんな遥に突然の悲劇が襲う。
祖父と従姉妹のルシアとともに火事に遭い、全身大火傷を負って
しまったのだ。
全身を包帯で覆われ、箸さえ満足に持てない・・・。
ピアニストへの夢を諦めかけていた遥に、ピアニストの岬洋介が
レッスンを引き受ける。
つらいリハビリ、厳しいレッスン。しかし、ピアニストになるため
遥はひたすら頑張るのだった・・・。
しかし、そんな遥の周りで不吉な出来事が次々と起こる。
そして、ついに殺人事件までが発生し・・・。

【 成長物語とミステリー 】

普通に体を動かすことすら困難なほどに重傷を負った遥。
満足に指を動かすことすらできない中、つらいリハビリを重ね、
岬の指導のおかげもあり、少しずつピアニストへの夢に向かって
一歩一歩進んでいく。
障害者に対する差別や偏見、そして、いじめ。そんな逆境の中
でもピアノに打ち込み、努力をして、少しずつ成長していく
遥の姿に”頑張れ!”っと応援していました。

それだけでも素敵な青春小説ですが、この作品はミステリー。
祖父からの莫大な遺産を相続することになった遥の周囲で起こる
不吉な出来事。
命を狙われているのか?そんな状態の中で発生する殺人事件。
犯人は?誰が遥が狙われるのか?

ラストもなかなか。上手く騙されました ^^
成長物語としても、ミステリーとしても、どちらも楽しめる素敵な
作品ですヨ!

【 +plus 】

「おやすみラフマニノフ」はまだ読んでませんが、続編というより、
岬洋介が探偵役となるシリーズもののよう。
たぶん、「さよならドビュッシー」を読んでなくても楽しめそうですが、
岬洋介の人なりが説明されているので、やはり「さよなら・・・」から
読んだ方がいいみたい。
「さよなら・・・」をすごく気に入ったので、「おやすみ・・・」もすご~く
楽しみです


下町ロケット 【池井戸 潤】 [最近の素敵な本の棚]

第145回直木賞受賞作
受賞の記事を新聞で読んで、出勤前のあわただしい中、早速、
図書館に予約。やっと読むことができました。
さすが直木賞受賞作。物語にグイグイと惹き込まれて、いっきに
読んでしまいました。
おもしろかった~!

下町ロケット .jpg
下町ロケット (←amazonへはタイトルをクリックしてネ!)
作者: 池井戸 潤
出版社/メーカー: 小学館
発売日: 2010/11/24
メディア: 単行本

【 story 】

宇宙科学開発機構の研究員としてロケットエンジンの設計製造に
携わっていた佃航平。
しかし、ロケット打ち上げの失敗の責任と父親の死により、て実家
の佃製作所を継いでいた。
佃が社長を継いでからは、より精度が求められるエンジンやその
周辺デバイスを手掛けるようになり売り上げは伸びていたが、
そんな佃製作所に激震が襲う。
大手取引先からの突然の取引停止の通告、ライバルの大手企業
からの特許侵害訴訟。大企業に翻弄され運転資金は枯渇、会社は
倒産の危機に瀕していた。
そんなさなか、日本を代表する大資本、帝国重工から、佃製作所が
所有する特許を買い取りたいという話が舞い込む。それは、佃製作
所が特許取得していた水素エンジンのバルブシステムだった!
資金繰りが厳しい佃製作所だったが、佃は特許の買い取りどころか
特許使用契約の申し出さえ断り、逆にバルブシステムの供給を
提案する。
社内からも反発が出る中、次第に会社のプライドをかけ、そして、
自分のたちの手でロケットを飛ばすという夢に向かって佃製作所は
走りだす・・・。

【 爽快感が楽しめる作品! 】

前段の中小企業が大企業に翻弄される姿や、特許訴訟を利用した
大企業の戦略なんかは、まるで高杉良さんのような企業・経済小説を
読んでいるかのよう(企業・経済小説はあまり読まないので、あくまで
印象です)。
大企業の理不尽に「佃製作所がんばれ!」っと応援していました ^^

そして、後段の「自社製品がロケットを飛ばす」という夢に向かって走り
出す佃製作所。
どうしても“夢”があるって魅力的だし、主人公に感情移入しているから
応援したくなるけど、正直なところ、製品供給に反対していた若手社員
の意見は、もし自分が従業員の立場だったら、そう思うなって思い、
ちょっと複雑な気分でした。
確かに、特許料さえ入ればいいという訳ではなく、佃のように夢を追い
かける、プライドを持って仕事することってすごく大切ですよね。
一方で、従業員200名からの企業は、その裏にその数倍の従業員の
家族の生活を背負っている訳で、夢を追うことだけが正しい!とは
なかなか言えないんだろうと思います。
だから主人公の佃社長も悩んでいたわけで、まあ、この物語は、
「夢をやり遂げようとする意志が大切」ということを言いたかったのかも
しれませんネ。

次から次へと問題が生じる中、それを乗り越えていく佃社長や佃製作所
の従業員になったように、一喜一憂しながら読み進めました。
あまり触れたことのない一味違った作品!
爽快感があって、ホントおもしろかったです v^^v

 


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