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黒と茶の幻想【恩田 陸】 [静かな物語の棚]

【 syory 】

学生時代の友人だった男女四人は、30代半ばにさしかかり、
それぞれがそれぞれの人生を歩んでいる。
その4人がY島を訪れることになった。
それぞれがそれぞれ胸の奥底に葛藤を抱えたまま、森の奥深くに潜むY杉を目指す。
うっそうと生い茂る森の中、澄んだ空気にさらされ、
あるときは霧に覆われた幻想的な自然の中をひたすら歩くうちに取り戻す過去、自分。
過去を振り返り、自分を見つめていくなかで、歩ききった先に得たものは・・・。

黒と茶の幻想 (上)

黒と茶の幻想 (上)

  • 作者: 恩田 陸
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2006/04/14
  • メディア: 文庫

 

黒と茶の幻想 (下)

黒と茶の幻想 (下)

  • 作者: 恩田 陸
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2006/04/14
  • メディア: 文庫


【 自分を見つめる旅 】

大人の物語。あるいは,大人版の「夜のピクニック」ともいうような作品。

大きな事件・エピソードはない。隔世された森をただ歩くだけ。
交わされる会話。自問。それだけである。
交わされ、解かれる「美しい謎」から、Y島の森に入り込むように、
自分の深い森(深層心理)に分け入っていく。
彼らがY島を訪れたのは偶然なのか、
それとも人生の転機において必然なものだったのだろうか。

自分の体験と重ね合うような物語です。
読後の爽快感がとても気持ちいいです。

【 episode+ 】

私も夏山登山をする。片道6時間くらい。
最初のうちは、
久しぶりに会った友人と近況を話したり、
仕事の話をしたり、恋愛話をしたりとたわいのない会話が続く。
しかし、そのうちに息が上がり、疲れ始め、汗だくになっていると、
お互いに話をすることも面倒になってくる。
そして沈黙。聞こえてくるのは自分の息遣いばかり。

輝く太陽、木々の中、美しく広がる山々。
残る雪渓。広がる自然の中を黙々と歩いていると、最初は仕事のこと、
趣味のこと、家族のことなどといろいろと考えがめぐる。
そのうちに人生とは、悩みとは、っと心の奥底に入り込んでいく。
ただ、ただ自問する。自答する。考える。そうして何十分、何時間と考え続ける。
そして,一つの答えが見つかる。
それは光明のときもあらば、諦め、悩むことの無意味に気づくことも。
答えはいろいろ。
しかし、答えがどうであれ、考え抜いた末の結論は非常にすがすがしい。
自分自身と向き合って考え抜くからであろうか。
自分から日常が剥がれ落ちるような感覚になる。

この物語はまさにそんな物語。
自分と重なった。
山登りに限らず、トレッキングも同じ。それらに人々が魅かれるのは、
その爽快感があるからかもしれない。
本書を読んでいて、改めてそう思った。


タグ:恩田陸
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