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劒岳 〈点の記〉 【新田次郎】 [静かな物語の棚]

毎年、夏山登山をしています。山の天候はとても変わりやすいので、
比較的安定している午前中に登り、遅くとも午後2時や3時までに
山小屋に入るのが基本です。山小屋の夜は早く、午後9時や10時
には消灯になってしまうため、夕日を眺めたり、雄大な山々や高山
植物を見て楽しんだとしても、寝るまでには十分な時間があります。

そこで、美しい自然に囲まれながらゆっくり本でも読もう!そして、
それならやっぱ山の本がいいと思って持参したのがこの作品。
山岳小説は夢枕獏さんの「神々の山嶺」(非常にお薦め!)しか
読んだことがなく、しかも、新田次郎さんの作品を読むのは初めて。
読み始める前は自分の好みに合うか心配でしたが、非常に読み
やすくて、実話を基に描かれていることもあって、グイグイと惹き
込まれ、あっという間に読んでしまいました(さすがに山では読み
終わりませんでしたが)。
今年、これまでに読んだ中で一番の作品といえるかもしれません!
山に登らない人も十分に楽しめる作品だと思います。

  剣岳 .jpg
  劒岳―点の記 (文春文庫 (に1-34))
   ( ↑ amazonへはタイトルをクリックしてネ! )
   作者: 新田 次郎
   出版社/メーカー: 文藝春秋
   発売日: 2006/01/10
   メディア: 文庫

【 story 】

~点の記とは三角点設定の記録である。一等三角点の記、二等
三角点の記、三等三角点の記の3種類がある。三角点標石埋定
の年月日及び人名、覘標(観測用のやぐら)建設の年月日及び
人名、測量観測の年月日及び人名の他、その三角点に至る道順、
人夫賃、宿泊設備、飲料水等の必要事項を集録したものであり、
明治21年以来の記録は永久保存資料として国土地理院に保管
されている~

明治39年9月。測量の仕事を終え、半年ぶりに陸地測量部に
帰ってきた測量士の柴崎芳太郎は、帰る早々、陸地測量部長で
ある大久保少将から呼び出しを受けた。
少将の指示は、まだ測量がされていない中部山岳地域の測量、
そして、山岳会より先に未登の山、越中剣岳に測量隊の旗を立て
よというものだった。
明治40年、柴崎は案内人・宇治長次郎らとともに、数々の困難
と闘いながら、剣岳山頂をめざす!

【 実話が基だからなおさら感動! 】

ただ、単純に剣岳登頂や三角点設置を語っただけの物語でしたら、
これだけ惹き込まれなかったかもしれません。

“誰もが不可能と言うような剣岳に初登頂することはできるのか?”
“山岳会より先に登頂できるか?”

次々に主人公たちの前に立ちふさがる困難に、それをどのように
乗り越えていくのかと読むのをやめることができず、未踏とされて
きた剣岳の真実への興味も加わって、あっという間に読み終えて
しまいました。
剣岳初登頂、三角点設置にかけた男たちの“静かな”でも“熱い”
思いがひしひしと伝わってきて、困難に直面しても、職務遂行の
ために淡々と職務をこなしていく、そんな主人公たちの努力と忍耐、
そして高い使命感で達成していく実直な人間性にも惹かれました。

実話が基なので、その主人公たちの姿勢になおさら感動しました! 

【 新田版「点の記」 】

信じられないことですが(よく考えれば当然ですが)、明治の頃
までは、日本国内にもまだ未踏の場所があったんですよね。
今でこそ、日本全国どこのものでも詳細な地図が手に入りますが、
その地図の作成の裏にこれほど先人たちの苦労が隠されていた
ことに驚きました。
正確な地図を作成するため、重い機材を運びながら道なき山々に
足を踏み入れ、しかも半年以上をかけて山々を歩き回り、三角点を
設置し測量を繰り返す作業。想像するだけでも体力と忍耐のいる
大変な作業だったかと思います。
しかも、陸軍の威信のため、山岳会より先に剣岳の頂を踏むという
使命まで課されていた柴崎芳太郎たちにとって、その困難さは
なおさらだったことと思います。

しかしながら、これほど困難な仕事をやり遂げながら、剣岳は
4等三角点となったという1点をもって、何ら公式の記録(点の記)と
して残らず・・・。何か悲しいですね。このような歴史の表舞台に
登場することのない出来事というものは、これまでの人間の歴史
の中でいくらでもあるのでしょうが、このように困難をやり遂げた
快挙は社会的に評価されるべきであり、どのような形であれ
快挙に光を当て、後生に記録が残されるのはすばらしく、嬉しく
思います。
新田次郎さんが自ら書かれている“あとがき”(作品の裏話が載って
いておもしろいんです!)を読んでも、細かな部分にフィクションは
多いのかもしれませんが、おおまかな史実は丁寧にたどっている
様子。この物語は正史ではありませんが、サブタイトルのとおり、
歴史の裏に隠された事実に光を当てた「点の記」(記録)であり、
その点だけをとっても非常に意味のある作品だと思います。

山岳小説はおもしろいの??っと躊躇していた私が言うのもなん
なのですが、本当におもしろい魅力的な作品です。
未読の方は、是非とも読んでみてください。非常にお薦めです

【 episode+ 】

これまでも登山をしていて三角点を見かけることが何度もありました。
どうして山頂とは離れた平坦な場所に三角点を設置しているのだろう?
などと不思議に思っていましたが、そのような場所に設置されている
理由や、昔は三角点設置の裏にこんなドラマがあったのかと思うと、
三角点を見る目が変わりました。
今年の夏山登山でも2か所で三角点を見かけているのですが、その
傍を通り過ぎるとき、この三角点を設置するときも、もしかしたら史実
には残っていない苦労が秘められているのかもしれないなっと想像し
たら、何だか三角点が特別なものに見えました。


タグ:山岳小説
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