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ねえ、委員長 【市川拓司】 [最近の素敵な本の棚]

いつも思うのですが、市川拓司さんの物語は透明で、繊細で、
純粋であたたか。こういう物語に触れていると、自分の心も
浄化されるかのようで、やみつきになります。
なので、新作や文庫化をいつも気にしているのですが、この
作品のタイトルを見たときは、正直なところ、よくある青春物語
のような印象であまり惹かれませんでした。
でも、“あの”市川拓司さんの作品。そんなわけはないだろうと
思い直し手に取ったところ・・・。3つの短編からなりますが、
いずれもとても私好み!素敵な作品でした。

  ▼ 素敵なカバーですよね!オシャレ♪
  ねえ、委員長.jpg
  ねえ、委員長 (幻冬舎文庫)
   ( ↑ amazonへはタイトルをクリックしてネ!)
   作者: 市川 拓司
   出版社/メーカー: 幻冬舎
   発売日: 2014/04/10
   メディア: 文庫

【 story 】 

一人だけの陸上部に所属し、長距離走の得意なわたし。
いじめられっこの祐希。彼が歌の上手いことをたまたま知った
わたしは、少しずつ話すようになる。そんな彼が、校内マラソン
で10位以内に入ることを約束させられたことから・・・。
                            (Your song)
目立たないように、浮かないように自分に嘘をつき演じる転入生
のぼく。絵の才能があって、黒板にすら素敵な絵を描ける彼女。
いじめられる彼女をはげましたくて、ぼくは1通の手紙を下駄箱
に入れる・・・。
                             (泥棒の娘)
周りの期待に反しないよう品行方正、成績優秀でいる学級委員
長のわたし。体調を崩して道端に座り込んでいたわたしに声を
かけてくれたのが鹿山くんだった。成績がぎりぎりの彼から勉強
を教えて欲しいと頼まれたのと交換条件に、わたしの薦めた
小説の感想を聞かせてもらうことを約束する。やがて、小説を
書き始めた彼。その小説を読んだときわたしは・・・。
                            (ねえ、委員長)

【 心が純化されていく感じ 】 

この物語は、市川拓司さんの透明で、繊細で、純粋なところに
“爽やかさ”も加わった感じ。触れば割れてしまいそうなガラスの
ような純粋な心を抱え、世の中に満ちた悪意につまずき、時には、
粉々に砕けてしまいそうになるくらい傷つきながら、懸命に居場所
を探している主人公ら。少しでも異質な者を攻撃し、排除しようと
する社会の中で、理解されない異端として、彼らの声なき悲鳴と
窒息しそうなほどの息苦しさが伝わってきます。

しかし、この物語が、それほど息苦しさを感じさせず、爽やかなの
は、自分たちが理解していればいいと思う強さと、お互いの心と
心が深く結び付き合っているから。そして、彼らの心の悲鳴を
意識しすぎず、暗い印象にならずに安心して読み進められるのも、
時を隔てて二人が再会し(ようとし)、明るい二人の出発を暗示させ
るようなプロローグから物語が始まるからかもしれません。
この作品は、タイトルから受けた印象のような青春物語、あるいは、
出版社が紹介するような恋愛小説という枠には納まらなくて、
上手い言葉が見つからないのですが、それより、社会から外れて
ると言われそうな人に、

 “頑張って行きていこ!きっと、誰かが君を理解してくれるよ。
  そして、その先には光が必ず待っているよ”

とエールを送っている印象の作品です。
いずれも、心が美しく純化されていくような素敵な作品。あえて
選ぶなら、私は「ねえ、委員長」が一番好きかな。

【 plus+ 】

市川拓司さんの作品の、主人公たちの会話も好き。
どうでもいいかのように、表面的な会話を交わしているようであり
ながら、その裏にたくさんの想いがつまった不器用な会話。そんな
会話や、主人公たちの間に存在する空気が、市川作品の独特の
雰囲気を醸し出しているのかもしれません。


タグ:市川拓司
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