< harmony/> ハーモニー 【映画】 [映画の棚]
夭逝の作家、伊藤計劃(けいかく)氏の3作品が映画化されて
います。ちなみに夭逝(ようせい)とは、若くして死ぬこと、早世の
意味。伊藤氏の才能がどれほどなのか承知していませんが、
このように伊藤氏を称え映像化しているのですから、高く評価さ
れているのでしょう。そんなことから、全く未知であるこの作品が
気になって観てみました。
▲ 映画の公開に併せて(だと思いますが)、このイラストが
原作文庫の通常カバーの上にかけられています。
ハーモニー〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)
( ↑ 原作本は、タイトルをクリックしてamazonへ)
作者: 伊藤計劃
出版社/メーカー: 早川書房
発売日: 2014/08/08
メディア: 文庫
【 story 】
世界が混沌を極めた「大災禍」後、恒常的に体内の健康状態
を監視するシステムWatchMeをインストールし、メディケアに
よって病気を駆逐した、優しさと倫理に支配された世界。
その真綿でやさしく首を絞めるような優しい世界に徒(あだ)をな
すことを示そうと、御冷ミァハ、零下堂キアン、そして、霧慧トァン
は自殺を図る。
13年後、そんな世界を覆すような同時多発自死事件が発生し、
螺旋監察官となったトァンの目前で、もう一人生き残ったキアンも
「うん、ごめんね、ミァハ」という言葉を残して自殺する。死んだはず
のミァハの意識を感じてトァンは調査を始める・・・。
【 難解☆ 】
一見、調和のとれた理想的とも言える世界。しかし、そこに潜む
息苦しさと、人としての本質とはといったテーマが描かれた、少々
(かなり?)難解な物語。映画を観ただけでは十分に理解できず
原作を読みました。原作を読まなかったら、うまく世界観を理解で
きたか自信がなかったな(まあ、伊藤氏が描きたかったことを十分
に理解したという自信もないけど)。
一方で、もし映画を観ていなかったら、小説だけ読んでも世界観
が上手くイメージできず、理解できた気がしないのです(映画で
ストーリーの大枠と世界観を把握して、小説で、映画で理解し切れ
なかったところを補完した感じです)。つまり、「観て」「読んで」を
両方しないと理解できない作品かもしれないですネ!
映画は、時間の枠に納めるために本題に影響しないエピソードを
削ぎ落としていますが、かなり原作に忠実に描いています。でも、
やはり小説の方が、伊藤氏の世界観を深く理解できた印象かな。
人物に“思い”を好きなだけ語らせることができますからネ!
ラストは、映画を観たときの私の解釈が少し誤っていたようで(私の
理解力不足です!)、小説を読んで、ミァハの目指した世界や手法、
トァンの感情が理解できました。
私的には映像を観てから本を読む方が世界観を理解しやすくて
お薦めかな☆
【 +plus 】
映画にも小説にも、「<」と「>」に囲まれた表記が出てきます。
詳しくはないので話半分で聞いて欲しいですが、小説では、
<declaration:calculation>
<pls:敗残者の物語>
<pls:脱走者の物語>
<pls:つまりわたし>
</declaration>
で物語が始まります。
<>と</>は、<>から</>までという意味になり、<>に挟ま
れたdeclarationは、公表とか宣言という意味ですので、この小説
は「敗残者の物語」、「脱走者の物語」、「つまりわたし」という『宣言』
なのでしょう(たぶん^^;)。
</>が終わりを意味しているとすると、タイトルの<harmony/>
に「/」がついているのが意味深ですネ!