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となり町戦争 【三崎亜記】 [静かな物語の棚]

三崎亜紀さんの「失われた町」を読んだとき、温かさ、寂しさ、
もの悲しさといったものが少しずつ心に染み入ってきて、読後、
しばらく静かにその余韻に浸りました。
そんな三崎作品の余韻をまた味わいたい!と思って読んだ
作品です。
この作品も、じわじわと静かに心に染み入ってくるような素敵な
作品でした(*^-’)bウン!イイヨ~☆。

  となり町戦争.jpg
  となり町戦争 (集英社文庫)
       ( ↑ amazonへはタイトルをクリックしてネ!)
 
       作者: 三崎 亜記
        出版社/メーカー: 集英社
        発売日: 2006/12/15
        メディア: 文庫

【 story 】

ある日、町の広報紙でみつけた「となり町」との戦争の知らせ。

   【となり町との戦争のお知らせ】
     開戦日   9月1日
     終戦日   3月31日(予定)
     開催地   町内各所
     内 容   拠点防御 夜間攻撃
            敵地偵察 白兵戦
       お問合せ  総務課となり町戦争係

だが、その9月1日を迎えてもなんら変わらぬ日常と光景に、
“僕”は戦時下という実感が持てないままでいた。
そして戦争のことさえ忘れかけていたある日、役場から
戦時偵察員の委嘱の呼出状が届く・・・。
僕はその“見えない”戦争を知りたいという興味も手伝って
委嘱を受けることにする。
増える戦死者。でも、目の前に広がるのは平穏な町並み。
僕はとなり町との戦争を実感できないまま関わっていく・・・。

【 独特の余韻! 】

「失われた町」も、「となり町戦争」も、逃れようのない過酷な
“現実”があって、その“現実”に直面する登場人物の悲しみ
に共感し、その“現実”に前向きに向き合う姿に心があたたまり
ました。
そして、その“悲しみ”と“あたたかさ”が少しずつ染み入って
きて、読後に味わう独特の余韻。
「失われた町」とこの「となり町戦争」しか読んでいないので、
三崎作品がすべて“そう”だと言い切ることはできませんが、
心の奥に何か“ほわっ”としたものが残るこの余韻は、もう
“やみつき”になりそうです!
この独特の余韻を醸し出す三崎作品はお気に入りです

【 妙技 】

ところで「失われた町」も、「となり町戦争」も、一見、現実的な
社会を舞台にしていながら、少しだけ“非現実”を混入した
世界が舞台です。
「失われた町」では、何かの意志により、町が丸ごと消滅して
しまうことが人々に“当然”として受け入れられている世界で
したし、この「となり町戦争」では、町の活性化のため、事業と
して戦争をすることが“当然”に許容されている世界・・・。

私が三崎さんの妙技だなっと思うのは、登場人物たちが直面
する過酷な“現実”を、「町が消滅してしまう」とか、「となり町と
戦争する」といったように、読者には“非現実”的なものにして
いるところ。
それにより、過酷な現実がやわらかなオブラートに包まれた
かのようになり、悲しみに“痛さ”をあまり感じさせずに、読後に
“悲しみ”より“あたたかさ”の余韻の方を強く感じさせている
のだと思います。

“あたたかさ”と“悲しみ”がないまぜになて、じわじわ~と染み
入ってくる素敵な作品!
この独特の余韻を是非、味わってみていただけたらと思います。
(o^-')b 


タグ:三崎亜記
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東京公園 【小路幸也】 [静かな物語の棚]

映画を観て原作を読んでみたくなった作品です。
この作品は、公園をめぐる女性をカメラ越しに見守る主人公を
中心に描かれた物語ですが、映画では、基本的に原作を追っては
いるものの、どちらかというと姉や幼馴染みとの関係が中心という
感じなので、原作でこの物語の瑞々しさを是非とも楽しんでみて
くださいネ♪

東京公園_s.jpg
東京公園 (新潮文庫) (←amazonへはタイトルをクリックね!)
作者: 小路 幸也
出版社/メーカー: 新潮社
発売日: 2009/07/28
メディア: 文庫

【 story 】

カメラマン志望の大学生の圭司は、時間があるとカメラを
抱え東京中の公園を回り、親子連れや家族の写真を撮って
いる。

ある日、葛飾区の水元公園で、木立の中の歩道で、池の
方を眺めながらたたずんでいる若いお母さんと、ベビーカー
の中で眠っている女の子を見かけたとき、圭司は何も
考えずにシャッターを切っていた。

そのとき知り合った男性から、圭司は奇妙な依頼を受ける―
 「妻の百合香を尾行して写真を撮ってほしい」
幼い娘を連れて、都内の公園をめぐる百合香。
ベビーカーの母娘をカメラ越しに見つめる圭司は、いつしか
彼女に惹かれていく・・・。

【 静かに感性をくすぐる作品 】

 百合香はどんな想いから、幼い娘を連れて公園をめぐって
 いるのだろうか―
 なぜ、撮影されていることに気づきながら、百合香はそれを
 許しているのだろうか―

“謎”というほど大げさではないですが、そんな疑問が物語に
やわらかく惹き込んでいってくれました。

そして、

 僕は確かに、百合香さんに会いたいと思っていた。
 でもそれは、好きだっていうことなんだろうか。

その想いが好きということなのか自分でも分からない、でも・・・。
そんな圭司の想いが瑞々しく伝わってくる作品でした。

とても爽やかに、さらっと水が静かに流れていくような物語で、
ラストもとても素敵!
こういう感性をくすぐってくれる作品ってだ~い好きです。
公園での母娘の温かな姿にほのぼのとし、そして、その姿を
カメラ越しに見守る圭司の視線も温かで、“陽だまりの心地よさ”
みたいな雰囲気のある作品でした。

【 +plus 】

撮影されていることに百合香が気づいており、圭司もまた、
百合香が気づいていることに気づきながら、お互いに言葉を
交わすことなくカメラ
越しに交わされる無言の会話みたいな
ところがちょっと好きなシーンです。


 


タグ:原作
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凍りのくじら 【辻村深月】 [静かな物語の棚]

『名前探しの放課後』を読んで、むしょ~に辻村深月さんの
作品が読みたくなった私。
この作品の評判もすごくいいのを知って読んでみました。
「冷たい校舎」や「名前探し」と一味違った素敵な作品♪
もしかしたら好みは分かれるかもしれませんが、私はこういう
作品がだ~い好きです ('-^*)b

凍りのくじら.jpg
凍りのくじら (講談社文庫) (←amazonへはタイトルをクリックね!)
作者: 辻村 深月
出版社/メーカー: 講談社
発売日: 2008/11/14
メディア: 文庫

【 story 】

高校2年生、芦沢理帆子。

『ぼくにとっての「SF」は、サイエンス・フィクションではなくて、
「少し不思議な物語」のSF(すこし・ふしぎ)なのです』

尊敬する藤子・F・不二雄先生のこの言葉から始まった彼女の
密かな遊び「スコシ・ナントカ」
本当の意味でのSFに全く関係ない場所で、人や物事の性質
にこの言葉を当てはめる。
ちなみに、現実感が妙に薄く、他人への感情移入がうまく
できない自分は「少し・不在」
場の当事者になることは絶対になく、どこにいてもそこを自分
の場所だと思えない・・・。

そんな理帆子は、7月のある日の放課後、学校の図書室で
3年生の青年から、写真のモデルを頼まれる。
戸惑いつつも、次第に他とは違う内面を見せていく理帆子。
そして同じ頃から理帆子の周りで不思議ことが始まる。
それは理帆子への警告だった・・・。

【 心の深い内面を描かれた素敵な作品! 】

人から一歩引いて、冷めた目で物事を見つめる理帆子。
まるで、心の痛みを感じないように、傷つくのを恐れるように
心に薄いバリアーを張っているかのよう。
そして、世の中を見下し、一方的に他者を見下げている
そんな自分に冷めたものを感じ、嫌悪感を持っている。

人は大概にして、人と触れ合い、傷つくのを恐れ、人より優位
に立っていると思い込むなどして、心を守ろうとしているところ
があるのだと思います。
そして、そういう思いを持ち、そんな思いを持っていることに
嫌悪感を抱えている理帆子の気持がヒリヒリと伝わってきて、
少し胸がチクチクとしました。
何だか自分と重なって共感させられました。

物語の雰囲気は、タイトルのとおり、死に際して、凍りの海で、
深い海の底に沈んでいく “くじら” のよう。
決して、明るく楽しい物語ではなく、沈殿しているような雰囲気が
漂う物語です。
でも、このように心の深い内面を描いた作品は心に染みいって
きてきます。こういう感じはすごく好きです。

【 SF(少し・不思議)を描いた作品 】

藤子・F・不二雄氏は、肩肘の張ったSFを描くのではなくて、
日常のなかに「少し・不思議」の世界を描いたそうですが、
この作品も同じ。
この作品でも「少し・不思議」なことが描かれていますが、その
少し不思議が妙に違和感がなく、すっと受け入れられる不思議。
そして、心が温かくなりました。

最初に書いたとおり、もしかしたら好みは分かれるかも。
でも、心がちょっと元気な時に、じっくりと味わいながら読むのを
お薦めしたい作品です。
ホント素敵な作品ですヨ!

 


タグ:辻村深月
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失われた町 【三崎亜記】 [静かな物語の棚]

「となり町戦争」などで三崎亜記さんの名は知っていましたが、
読むのは初めて。
この「失われた町」を最初に選んだのは、友だちからのお薦めでした。
お薦めどおり、心に染み入ってきて、とても素敵な作品です

  失われた町.jpg
  ▲ 失われた町 (集英社文庫)
    ( ↑ amazonへはタイトルをクリックしてネ!)
    作者: 三崎 亜記
     出版社/メーカー: 集英社
     発売日: 2009/11/20
     メディア: 文庫

 ▲ 物語の雰囲気が出た表紙です! ハードカバーより好き。
   編集者さんのセンスを感じます ^^

【 story 】

ある日、突然にひとつの町から住民が消失する―。
30年ごとに起きる町の「消滅」。
その町の住民は消滅を知っていても、町の意志に支配され
逃れるすべはない。
そしてこの不可解なこの現象は、悲しみを察知した町により、
消滅した町のみならずさらにその範囲を広げる。
そのため、町からの汚染を防ぐため、人々は悲しむことを
禁じられ、失われた町の痕跡は国家によって抹消されていた・・・。

【 素敵な余韻 】

7つからなるエピソードの主人公たちは、それぞれが町の消滅により
“ かけがえないもの ”を失った人々。
悲しみを抱えながら、消滅した人や消滅の阻止にかかわった
人の想いを引き継ぎ、静かに、でも、ゆるぎない決意をもって
消滅を阻止すべく生きています。
そんな、確固たる意志を秘め、失われるその瞬間まであきらめずに
精一杯生きようとする主人公たちは、非常にカッコよくて、素敵!
そんな生き方に魅了されました。

どのエピソードも理不尽に失われる悲しさを秘めた物語のはずなのに、
不思議と優しさとあたたかさが満ちているように感じる作品。
私が特に好きなのは、エピソード4の『終の響い(ついのおとない)』。
静かに愛し、静かに死を受け入れていった夫婦の物語。
ちょっと悲しいけど、夫婦を包み込むように温かくやわらかな雰囲気に
満たされていて、何だかほんわかと心が温かくなりました。
そして、エピソードを挟む最初と最後の物語がいっそう各エピソードを
引き立てていて、素敵な余韻に浸れます。

また一人、好きな作家さんが増えました。 (*^-')♪
ホント素敵な物語で、私もお薦めです。


タグ:三崎亜記
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猫を抱いて象と泳ぐ 【小川洋子】 [静かな物語の棚]

小川洋子さんの作品を読むと、シンとした静寂の中を、息を潜めて
物語が流れていくような印象を受けます。
このBlogでも以前取り上げた、「沈黙博物館」や「薬指の標本」でも
同じ印象。
たまたま、そのような傾向の作品しか読んでないからなのかな?

そして、この「猫を抱いて象と泳ぐ」も、そんな静寂な雰囲気を持つ
物語です。

猫を抱いて象と泳ぐ

猫を抱いて象と泳ぐ

  • 作者: 小川 洋子
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2009/01/09
  • メディア: 単行本

【 story 】

ロシアのグランドマスターで、棋譜(動かした手を記録したもの)の美しさ
から、“ 盤上の詩人 ”という称号まで与えられた伝説のチェスプレイヤー
「アリョーヒン」になぞられ、「 リトル・アリョーヒン 」と呼ばれた少年の物語。

チェスに魅せられ、どのような相手であっても、棋譜の美しさを追い求め、
チェスという大海の中を静かに泳ぎ、時に身を任せ、人知れず至高の
棋譜を次々と残していく・・・。

【 物語の美しさ 】

この小説は、まるで透明でやわらかな光が包み込んでいるよう。
とても美しい物語です。

柔らかく温かい懐で少年にチェスを教えてくれた「マスター」、
彼の傍らでずっと棋譜を書きつづった、肩に白い鳩を載せた少女「ミイラ」、
そして、遠くから彼を支えてくれた「老婆令嬢」。
言葉が少なくても、チェスを通して結び付いた彼らと「リトル・アリョーヒン」の
関係は、いっそうこの物語を美しくしています。

そして、読んでない方には何のことか分からないと思いますが、「ミイラ」との
手紙のやり取りが、静かな余韻を残しました。

    三つ折りにされた便箋が一枚出てきた。そこには、時候の挨拶も、
    近況報告も、署名もなく、ただ真ん中に、
    【e4】
    とだけ記されていた。忘れようもないミイラの筆跡だった。
    一週間後、リトル・アリョーヒンは返事を書いた。
    【c5】
    それが彼の返事だった。

たったそれだけの文字の中に、少年とミイラの想いがこれ以上ないほど
込められていて・・・。

こういう、小川さんの世界は、人によってはもしかしたら好き嫌いがあるかも
しれませんが、私はこういう小川さんの世界が本当に大好きです。*^^*


タグ:小川洋子
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街の灯【北村 薫】 [静かな物語の棚]

第141回直木賞受賞作として話題の「鷺と雪」。
「鷺と雪」は、「ベッキーさん」シリーズといわれる物語の第3作(完結)ですが、
この「街の灯」は、その「ベッキーさん」シリーズの第1作です。

街の灯 (文春文庫)

街の灯 (文春文庫)

  • 作者: 北村 薫
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2006/05
  • メディア: 文庫

北村薫さんといえば、「夜の蝉」に代表される「円紫さんと私」シリーズや
「リセット」などの「時と人」シリーズが非常にファンが多いですが、
この「ベッキーさん」シリーズもかなり評判がいいですね。
私も、だ~い好きな作品です!

  ※ 「夜の蝉」「リセット」は以前、このブログで取り上げました。
   (  ここをクリック ↑ してネ!)
    よかったら読んでみてくださいネ ^^


【 あらすじ 】

昭和7年、上流家庭である花村家の令嬢・英子の運転手として
若い女性運転手・別宮(べっく)みつ子がやってくる。
当時は珍しい女性運転手。
英子は、そのとき読んでいたサッカレーの『虚栄の市』のヒロインにちなんで、
彼女を「ベッキーさん」と呼び、興味を抱く。

英子は「ベッキーさん」のさりげない手助けを得ながら、日常に潜む不思議な
謎を解き明かしていく

 ※連作短編が3篇収録されています。
  ・ 
新聞に載った怪奇な変死事件の謎を解き明かす「虚栄の市」
  ・ 
英子の兄を悩ませる友人からの暗号の謎を解き明かす「銀座八丁」
  ・ 静養先の軽井沢で行われた映写会中に起きた女性の死をめぐる
   謎を解き明かす「街の灯」


【 北村作品の魅力全開! 】

時は大正ロマンの香りが残る昭和の初め。
上流家庭のお嬢様・花村英子の視点から描かれた、当時、珍しい
女性運転手・ベッキーさんと日常に潜むちょっとした謎をめぐる物語。
(大人への階段を登り始める英子の成長物語といった感も少しあるかな!)

この物語の魅力の一つは、ベッキーさんの謎めいたところ。
運転手の制服姿がさっそうとしていて、まるで男装の麗人のようで、
しかも、知識が非常に豊富で、剣術や拳銃の腕前もなかなか。
そんな女性が何者なのか・・・。
ベッキーさんの謎に惹き込まれていきます!

そして、この物語のもう一つの魅力は、謎解き。
大きな事件が起こるわけではありませんが、
謎であることさえ気づかず
通り過ぎてしまいそうな不思議な謎を、ベッキーさんのさりげない助言を
得ながらお嬢様が解き明かしていくところが魅力です。

今後、どのように物語が進むのか、ベッキーさんの謎とともに楽しみです!

昭和の初めという時代背景だからでしょうか、スローなテンポで落ち着いた
雰囲気が漂うあたりや、日常に潜む謎を解き明かしていくところは
北村作品の魅力全開!っといった感じ。
こういう作品ってだ~い好きです(*^^*)

【 +plus 】

直木賞受賞作「鷺と雪」よりも評判がいいと言われる第2作「瑠璃の天」が
先日、ついに文庫本で刊行されました。
読むのがすご~く楽しみっ!

玻璃の天 (文春文庫)

玻璃の天 (文春文庫)

  • 作者: 北村 薫
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2009/09/04
  • メディア: 文庫


タグ:北村薫
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やさしい旋律【井上香織】 [静かな物語の棚]

昨年のクリスマスのころ、上映された作品の原作。
映画を観に行けず、この小説は映画の上映開始前に買ったのですが、
先送りになってしまっていました。
なぜか急に、ふっとこの小説が読みたくなって、読み始めました。
透明感のある素敵な作品でした。

【 story 】

愛していた彼に裏切られ、その彼の相手は親友・・・。
深く傷ついた過去を引きずるOLの美月茉莉亞(まりあ)。
誰かを信じて、そしてまた裏切られるのが怖い!
恋愛に臆病になっていた彼女は、心を閉ざしたまま
会社と家を淡々と往復する毎日を送っていた。
職場の先輩、榊に心惹かれても、自分の心の扉にしっかり鍵をかけて...。

そんな茉莉亞はクリスマス間近な雪の降る晩、ゴミの集積所に捨てられた
木製の細長いローテーブルのようなものを見かける。
それは、心の奥底に染み渡るようなやさしい音色を響かすピアノだった。
茉莉亞は自分にとまどいつつもピアノを自分の部屋に運び入れる。

そして、それ以降、茉莉亞の心をときほぐすかのような出来事が起こってゆく。

やさしい旋律―Blue Destiny (幻冬舎文庫)

やさしい旋律―Blue Destiny (幻冬舎文庫)

  • 作者: 井上 香織
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2008/11
  • メディア: 文庫

【 「本当の恋」と「運命の人」 】

恋愛の痛手って、それが本気であればあるほどつらいですよね。
ホント、簡単には割り切れないです。

なので、この物語の主人公「茉莉亞」が、恋に失敗して臆病になってしまうところ・・・。
あんなつらい思い、二度と味わいたくない・・・と思い、心に薄い膜のようなシールドを
張りめぐらして、なんとか自分を守ろうとするところ・・・。
そういうのって、自分を守るために、当然のことと思います。
そして、自分もそうだからか
、すごく共感します。

また、命の人を求める茉莉亞の恋愛観。これも共感!
ロマンチックな理想論かもしれないけど、
 もし破れたときに、つらく感じない、あっさりと気持ちを整理できてしまう恋愛は、
 本当の恋愛ではない。
と思います。皆さんはどう思いますか?

それは真理ではないかもしれませんが、私の恋愛観です

こんな風に、茉莉亞」の性格や恋愛観は、自分の感覚と非常に近くて、
読んでいて同化し、物語がす~と私の中に入ってきた感じです。
また、この小説は、心に傷を負った女性の物語なので、内容的には重いと思うのですが、
茉莉亞の心が解きほぐされていくところがすがすがしく、まさにピアノの音色のように
透明な雰囲気に包まれた小説という印象でした。
なかなか素敵な小説ですよ!

【 +plus 】

ロマンチックすぎるかも知れませんが、私も茉莉亞のように
 「運命の人=心から愛することができる人」
と出逢えたらいいな。


タグ:原作
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映画篇【金城一紀】 [静かな物語の棚]

【 Episode 】

金城一紀さんという作家の作品はこれまで読んだことがなかった・・・。
確か「GO」という作品があって映画化もされたという記憶はあるのだけど、
その映画は自分好みではなかったという印象が残っている
(出演者も覚えていないのだが・・・^^;)。

そのイメージから(正しいか分からないけど暴力がからむような作品をイメージしてた)、
読む対象の作家から無意識に外してきてしまっていたようだ・・・。
それが今、なぜこの作品を読む気になったかというと…評判がよかったから^^;。
いろいろなところで評判がいい。
僕を読む気にさせた「評判」がどのようなものだったかは実は覚えてないけど(笑)。

とにかく評判がいい。
でも、きっと頑固な僕は、たぶんそれだけでは読まなかったろうなぁ。
一度ごちごちに固まってしまったイメージが「評判」くらいでそう簡単に変わるようだったら、
僕の読書のテリトリーはもっと広かっただろう。っというか、とっくに読んでいただろう。
じゃあどうし読む気になったかを考えてみると、
「映画篇」というタイトルが映画好きの僕の心を刺激したからかな。
まあ、そんな単純な理由で、こうしてこの本に触れることとなった。


映画篇

映画篇

  • 作者: 金城 一紀
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2007/07
  • メディア: 単行本
この作品は
 
太陽がいっぱい
 ドラゴン怒りの鉄拳
 恋のためらい/フランキーとジョニーもしくはトゥルー・ロマンス
 ペイルライダー 愛の泉
 っという映画の題名のついた短編からなっている。
 

金城一紀さんの作品を読んでいると、ときどき「大脱走」の話題が出てくる。
1話目の「太陽がいっぱい」でも、2週連続でテレビ放送されておもしろかったこと
などと触れられていて、もしかして金城さんが見た放送と同じ放送を僕も見たのかもしれない。
僕もこの作品を小学生のころ2週にわたってテレビで観て大興奮した。
その当時、就寝時間は10時だったがこのときだけは11時まで許してもらって、
家族でふとんに川の字になって観た覚えがある。
両親もこの作品が好きで、この映画のすばらしさを僕たちに教えたかったようだ。
 
 「すごくよかった」
そんな感想を父親に伝えたとき、すごくうれしそうな表情をしていたのを想い出す。
そう、「大脱走」は、今も、僕のベスト1の作品として君臨している。

話はずれたが、正直、これらの5タイトルの映画を観たことがない。
「太陽がいっぱい」や「ドラゴン怒りの鉄拳」くらいならタイトルは知っているが・・・。
なので、タイトルがストーリーにどのくらい影響しているかは分からないが、
「映画篇」の中では僕は「愛の泉」が一番のお気に入り。
でも、ほかの作品もなかなか!。
「ペイルライダー」もよかったし、「恋のためらい」もよかった。
「ドラゴン怒りの鉄拳」も。「太陽がいっぱい」もはずせない。
おいおい、全部じゃないって突っ込まれそうだけど、
本当によかったんだもの、しかたないよね(#^.^#)
では、すべては無理なので、「愛の泉」と、ほかにもう1作品の内容だけ
触れておくことにする。

 【愛の泉】

おじいちゃんの一周忌の日。おばあちゃんの元気がない。
孫たちのあいだで≪だいじょうぶオーラ≫と呼ばれている
無敵のパワーが消えかかっているのだ。
おばあちゃんの元気を取り戻せるよう「僕」ら孫5人は、
おじいちゃんとおばあちゃんの想い出の映画「ローマの休日」の上映会を思いつく。

どうせなら映画館とかそういうところの大きいスクリーンで見せてあげたい、
そんな思いで僕たちの意見は一致したが、その準備役に指名されたのは僕。
フィルム探し、会場探しと難問はいっぱい。
フィルム探しで出会った映画好きの大学教授。
その大学教授の部屋で出逢った≪いたずらっ子≫の雰囲気を醸し出した女性。
いとこたちとの絆。
上映会を通して、人との輪が広がっていく…。

物語の雰囲気がとてもいい。ほんわり~とした雰囲気が漂っている。
主人公を含めた登場人物たちはみんながさやしくて、
「おばあちゃんが好き」という気持ちがひしひしと伝わってきて。
また、特に「僕」の、姿勢というか、さりげないやさしさがとてもいい。

   『なんかおかしな展開になっているなぁ、と思ったけれど、悪い人たちではなさそうだったし、
   すでに司さんのことを好きになってしまっていたので、しばらくはこのまま流れに身を任せる
   ことにした』

なんて感じで、「僕」の肩肘をはらずに素直に自分の気持ちを認める姿勢など、
読んでいて、こちらにも余計な力がはいらないところが気持ちよくて、
そして読後は、とても気持ちが温かくなっていた。

あと、物語とは直接関係するところではないけど、浜石教授の
 『easy come、easy go』(簡単に手に入るものは簡単に手から離れていってしまう)
という言葉が素敵。僕の座右の銘にしたいな!

 【恋のためらい】

  「ねぇ、一番好きな映画ってなんなの?」 
  隣の席に座っている石岡が、どうでもよさそうな感じのだるい声で訊いた。 
  僕はちょっとびっくりし、短く悩んだあと、答えた。 
  「『フランキーとジョニー』かな」  それが僕と石岡が始めて交わした会話だった。
  そんなある日、僕は彼女から『ローマの休日』の観賞に誘われる。
  そして、彼女から、悪徳弁護士の彼女のパパからお金を奪う計画であることを打ち明けられた
  とき、僕は参加することにした…。


------どーでもいいんだけど-------
併せて「対話篇」も読んだ。

 
対話篇

対話篇

  • 作者: 金城 一紀
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2003/02
  • メディア: 単行本
金城一紀さんの作品は読んだことはなかったけそ、
「恋愛小説」という彼の原作の映画は観ていて僕のお気に入りだったから。
ただ、原作は非常に短い短編と聞いていて、
映画はコンセプトを拝借したオリジナルと勝手に思っていたので、
自分の中で「金城作品≠映画」という図式が成り立っていたようである。
映画はほぼ原作に忠実だったけど、僕は映画のが好みかな。
小西真奈美さんが好きで観に行ったから^_^;

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麦の海に沈む果実【恩田 陸】 [静かな物語の棚]

自分の好みにピタリとはまる小説を見つけたときって、
至福の喜びですよね。
そういう小説ってなかなか見つかりません。
そんな中、恩田陸さんの作品はのきなみピタリ!
こんな作品を読みたいな~って思う作品をどんどん発表してくださいます。
この方の作品のバラエティ性、フィールドの広さ、率直に感嘆します。
この『麦の海に沈む果実』もそう。
私の好みにピタッとはまりすぎるくらいはまった作品です。
この作品も、満を持しての紹介です。

 ★☆☆☆☆★☆☆☆☆★☆☆☆☆★☆☆☆☆★☆☆☆☆★☆☆☆☆★

【 どんなお話・・・? 】

白く濡れた車窓。その外の風景は、灰色の斜面に綿々と続く殺風景な針葉樹林。
湿原と巨大な池に囲まれた北限の学園に向かう理瀬は
不安に押しつぶされそうになりながらいた。
もともとは修道院の跡に立てられた学院。
全寮制の中高一貫教育を実践する学園には、いわくのある生徒たちが集まっていた。
   あなたは二月の最後の日にやってきた-ここは三月の国-
三月以外の転入生は破滅をもたらすという伝説のあるこの学園に
「二月の最後の日」に編入してきた理瀬は、寮で隠された
「三月は深き紅の淵を」という本を見つける。
不自然に学園から姿を消す生徒たち。彼らは殺されたのか。
理瀬が迷いこんだ「三月の国」の秘密とは・・・?

麦の海に沈む果実 (講談社文庫)

麦の海に沈む果実 (講談社文庫)

  • 作者: 恩田 陸
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2004/01
  • メディア: 文庫

 
【 どんなところが好きかというと・・・ 】

雰囲気が好き!
ヨーロッパ(キリスト教)的な『凛』とした雰囲気。
(カバーの絵の雰囲気も素敵ですよね。)
閉鎖された特殊な環境(学園)。

そこに存在する歪んだ世界の住人(生徒)たち。
時に女装をし、時に男装する神秘的な校長。
そして、なにより主人公「理瀬」の存在。
「内気な美少女」という印象とは裏に隠された秘密。

それだけでワクワクしませんか?
不思議がいっぱい、謎がいっぱいのお話って大好きです。

【 ゆるやかな物語のつながり 】

この作品は、「三月」シリーズ(といっていいのか)の基礎となる
『三月は深き紅の淵を』という作品と、
以前、このブログでも取り上げた『黒と茶の幻想』と軽くからんでいます。
そして、「三月は・・・」は「黒と茶・・・」とも絡んでいるので・・・・。
つまりは、それぞれの作品が、少しずつ絡み合っている、そんな物語たちです。
でも、それぞれの作品は完全に独立!
私も「黒と茶・・・」を読んだとき、「三月は・・・」との関係を全く気づきませんでした。
そのくらいの絡みなので、安心して興味を持った作品からお読みくださいネ。

でも、そんな絡み。このごろ、他の作品の登場人物を登場させる作家が増えていて、
ちょっと目新しさというものはなくなってきている感じがしています。
しかし、恩田陸さんの場合、読者に気づかせないような登場のさせ方をしていながら
(絡んでいることを知らなくても気にならない!)、
一方で、「これでもか!これでもか!」って物語を絡ませているようにも思います。
この「しつこさ」(ゴメンなさい!)、「徹底さ」といった「こだわり」が、
素晴らしい作品を書かれるゆえんなのかも・・・。

ところで、 『黄昏の百合の骨』 は「麦の海・・・」の理瀬の後日談。
両作品は「ゆるやか」ではなく、「しっかり」と絡み合ってます。
このまま、シリーズ化しそうな雰囲気も。
この「麦の海」が気に入られた方は、是非とも読んでみてくださいネ。
私は大好きです。

黄昏の百合の骨 (講談社文庫)

黄昏の百合の骨 (講談社文庫)

  • 作者: 恩田 陸
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2007/04/13
  • メディア: 文庫

【 後記 】

この作品は、ホントどう書いていいのか分からなくて悩んだんです。
「好き」なんだけど「理論的に説明できない」、
そんな感じの、まるで「恋愛」を説明するような作品でした。
読み直して、書き始めて1か月。
満足いく内容ではないけど、本当に紹介したかったので、あえて我慢してアップします。
ちょっと肩の荷が下りた、そんな感じです(^^)


タグ:恩田陸
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恋する日曜日 私。恋した【渡辺千穂・田中夏代】 [静かな物語の棚]

光が溢れていました。
陽射しが夏ですよね!あまりに眩しすぎて目を細めたくなります。
今年は3年ぶりの猛暑になりそうとのこと。
暑い夏が来そうです。

でも、春のやわらかな季節が過ぎ去ってしまったように、
あっというまに夏も去り、そして季節は移り変わっていくのでしょうネ。
日々の生活でもそう。
楽しくても、つらくても「今日」という日は過ぎ去り、
「明日」という日は必ずやってきます。
では、「余命3か月」と言われたら・・・・・・。

今回、ご紹介する「恋する日曜日 私。恋した」の
主人公「二宮なぎさ」は余命3か月であることを知ります。

 ★☆☆☆☆★☆☆☆☆★☆☆☆☆★☆☆☆☆★☆☆☆☆★☆☆☆☆★

【 お話は・・・ 】

ガンで母を亡くした高校生の二宮なぎさは、自分が余命3か月であることを知る。
そのことを知ったとき、目に浮かんだのは、
2年前までいた街で隣に住んでいた「聡くん」のしかめっ面。
隣のお兄ちゃんだった「聡くん」。
入院する前にもう一度会って、自分の気持ちを確かめたい。
なぎさは父親に行き先も告げず、一人、生まれ育った海辺の街に向かう。

恋する日曜日  私。恋した

恋する日曜日 私。恋した

  • 作者: 渡辺 千穂; 田中 夏代
  • 出版社/メーカー: 泰文堂
  • 発売日: 2007/04/18
  • メディア: 文庫

【 読んだきっかけとか・・・ 】

表紙を見てわかるように、堀北真希さん主演の映画のノベライズです。
なので、純粋な原作ではないですし、正直なところ、あまり期待していませんでした。
でも、本屋さんで見かけるたびに気になって・・・。
堀北真希ちゃんだから?
ん~、正直、自分でも分からないけど、本に呼ばれている感じがしました。
で、「これは本に呼ばれているんだ!」と思って買ってみました。

物語は、悲壮な感じはなく、「ある真夏のひととき」のような感じで進みます。
「聡くん」との再会。
よみがえる数々の想い出。
直面する現実。

帰ってこなければよかった。
聡くんに会わなければよかった。
いつまでも、いつまでも、
自転車で町はずれの道を走りながら、
私は苦い後悔を振り切れずにいた。

なぎさにとって、この旅は、
自分の死というものを受け入れ、後悔のないよう、自分の気持ちを整理する旅。
自分にとって大切な場所(街)、大切な想い出をめぐりながら、ひとつひとつ
整理する旅。

「・・・いつか別れのときが来るんだっていうことを、はじめて知りました。
自分の力では変えられないことがあるんだっていうことを、はじめて知りました。
この町で暮らしたかった・・・そこにいて当たり前だった人が、
そこにあって当たり前だったものが、どれだけ大切だったかを、
私ははじめて知りました・・・・。」

大人への階段を一歩のぼった「なぎさ」に、
そして、
さわやかに、すっきりとしている「なぎさ」に、
読後の爽快感が残りました。
それほど長い小説でもないのに、「なぎさ」の心を丁寧に描いていて、
とても読みやすい作品でした。
映画は観ていないので分かりませんが、小説はお気に入りです。

 ★☆☆☆☆★☆☆☆☆★☆☆☆☆★☆☆☆☆★☆☆☆☆★☆☆☆☆★

【 どーでもいーは・な・し! 】

「リンダブックス」って初めて知りました。
紙質が厚くしっかりしていて、白い、他の
文庫と違う感じです。
おもしろかったのが、他のお薦め作品を最後
に紹介しているのですが、
「冒頭部分」をそのまま載せているところ。
内容を把握しやすくて、こういう紹介の仕方って「なかなか!」って感心しました。
ちなみに、紹介している作品もかなりおもしろそう。
ただ、タイトルがすごすぎて書けません。
店頭でも恥ずかしくて買えそうもない感じ。
読んでみてよかったら、紹介しますネ。

映画のフォトブックも集めています。
もちろん気に入った作品のものですが。

堀北真希in恋する日曜日私。恋した―BOMB PERFECT CINEMA VISUAL BOOK 堀北真希in恋する日曜日私。恋した―BOMB PERFECT CINEMA VISUAL BOOK
作者:出版社/メーカー: 学習研究社
発売日: 2007/05
メディア: 単行本

 

 ▲ この作品も観たいなぁ。
    ちょっと遠いけど、新宿までいこうかな~。

 ★☆☆☆☆★☆☆☆☆★☆☆☆☆★☆☆☆☆★☆☆☆☆★☆☆☆☆★☆☆☆☆★☆☆☆☆★dvdが発売されます!
結局、映画館で観れなかったので、dvdで観よっと!!

恋する日曜日 私。恋した

恋する日曜日 私。恋した

  • 出版社/メーカー: キングレコード
  • 発売日: 2007/11/21
  • メディア: DVD

<平成19年11月4日追記>

 


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